「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと緑の森の家(童話掌編シリーズ・完結)
エドさんと緑の森の家・12月23日
「シカシ、ナントモ、スバラシイ絵デス。ドチラモ、スバラシイ」
「妖精と悪魔だけでも持て余しているのに……今度は宇宙人か。いつから、うちの村はトワイライト・ゾーンになったんだ」
ジム署長は、勤務時間中だというのに、渋い顔をして、湯気の立つ、熱くて甘いラムの牛乳入りカクテルを飲んでいました。その横では、司祭さまが、同じくラムの熱いカクテルのマグカップを握っていました。
「まあ、みんな、この村が観光誘致のために企画した、出来の悪いイベントみたいに思っているから、そこまで悲観的に考えることもないんじゃないですか」
十六日に起こった事件は、即座にネットを通じて世界中に配信され、B級映画ファンの語り草になったのでした。無理もないでしょう。悪魔に妖精に宇宙人まで出てくれば、普通の人は、信じることはおろか、話すのもばかばかしいと思うものです。
「しかし、わらわも長いこと生きておるが、このようなものは初めて見る。長生きはするものじゃな」
グレンを膝の上に載せ、野蜜……伯爵領より取り寄せられた木いちごです……を食べていた妖精国の女王さまは、満足げな顔をしていました。
「それにしても、確かに約定には、『契約成立後の実力行使はこれを認めない』とは書いておらなんだ。宇宙人とか申したな。そなたが面妖なる光の矢でもってあの悪魔めを退けてくれなんだら、わらわも娘も命を失っていたであろう。まこと、大儀であった」
「ワタシタチハ、注文ノ絵ヲ受ケ取リニ来タダケデス。コノ星ノ住民ガ悪魔ト呼ブ、悪意ニ満チタ存在ヲナントカスレバ、絵ノ報酬ハソレダケデイイトイワレタノデ、ソイツヲ、時間ト空間ノ果テニ放リ込ミマシタ。ソレデ良イデスネ?」
「ばっちりです。時間と空間の果てとおっしゃるのが、どこのことなのか、聞くだけに恐ろしいですが、たぶんばっちりです」
エドさんは、どこか疲れた表情の妻のそばで、肩を優しく抱きながら、そう答えました。クロエさんが疲れるのも無理はありません。なにしろ、渾身の力をもって、二枚の絵を立て続けに仕上げたのですから。
「いちおう、星に持ち帰っていただくのは、こちらの、『家庭の団欒』の絵のほうにしてください。こっちの、木炭のスケッチのほうは、ちょっと差し上げられませんので」
クロエさんはそういうと、エドさんにいいました。
「ねえ、あなた、いったい、なにが決め手になったの?」
「きみの絵だ。あんな幸せそうな親娘の絵を見たら、誰だって、女王さまの言葉を疑ったりできない。それに、グレンは、あの絵の通りになっているじゃないか」
そうです。グレンの背中の羽は、絵に描かれていたとおり、こうもりの翼から、美しい蝶の羽へと変わっていたのでした。心なしか、グレンの顔も、いくらか女の子らしくなってきたように思えます。
「わたしは、最後には、人を信じることに決めたって、便利屋を始めるときにそういっただろう? 疑うこともいいが、わたしは自分の心を信じて、悪魔の罠に勝ったんだ」
「勝ったついでに、あなた、アイスクリームをもう一皿、取ってきてくれない? もう、疲れて、疲れて」
「それはいいけど、よく食べるね、クロエ」
「甘いものがおいしいっていうのは、健康の秘訣よ」
エドさんは苦笑すると、冷蔵庫にアイスクリームを取りに行きました。皿に取って戻ってくると、クロエさんが寂しそうに言いました。
「アリントン夫人もいたらよかったのに」
「昨日、病院の医者からメールが来ていた。失語症の回復は順調どころか奇跡的なものらしい。第一声が、『面白いことがあったんだって?』だとさ。今は、仲間外れにするなんてことをする村なんてこちらからお断りだ、ここを出て伯爵の島に引っ越すって、病室でぶつぶついっているらしい」
「そのほうが健康にはいいんじゃないのかしら。もう、わたしも、疲れるわ、眠いわ……いったいなんでなのかしら?」
妖精の女王さまが、顔を上げました。
「なんじゃ、そんなこともわからぬのか?」
「え?」
「これを最初に告げる栄誉が、わらわに与えられたこと、幸せに思うぞ、人間の女よ」
クロエさんをはじめとして、宇宙人を除くみんなが、その言葉の意味を反芻し、同時に声を上げました。
「ええーっ!」
「妖精と悪魔だけでも持て余しているのに……今度は宇宙人か。いつから、うちの村はトワイライト・ゾーンになったんだ」
ジム署長は、勤務時間中だというのに、渋い顔をして、湯気の立つ、熱くて甘いラムの牛乳入りカクテルを飲んでいました。その横では、司祭さまが、同じくラムの熱いカクテルのマグカップを握っていました。
「まあ、みんな、この村が観光誘致のために企画した、出来の悪いイベントみたいに思っているから、そこまで悲観的に考えることもないんじゃないですか」
十六日に起こった事件は、即座にネットを通じて世界中に配信され、B級映画ファンの語り草になったのでした。無理もないでしょう。悪魔に妖精に宇宙人まで出てくれば、普通の人は、信じることはおろか、話すのもばかばかしいと思うものです。
「しかし、わらわも長いこと生きておるが、このようなものは初めて見る。長生きはするものじゃな」
グレンを膝の上に載せ、野蜜……伯爵領より取り寄せられた木いちごです……を食べていた妖精国の女王さまは、満足げな顔をしていました。
「それにしても、確かに約定には、『契約成立後の実力行使はこれを認めない』とは書いておらなんだ。宇宙人とか申したな。そなたが面妖なる光の矢でもってあの悪魔めを退けてくれなんだら、わらわも娘も命を失っていたであろう。まこと、大儀であった」
「ワタシタチハ、注文ノ絵ヲ受ケ取リニ来タダケデス。コノ星ノ住民ガ悪魔ト呼ブ、悪意ニ満チタ存在ヲナントカスレバ、絵ノ報酬ハソレダケデイイトイワレタノデ、ソイツヲ、時間ト空間ノ果テニ放リ込ミマシタ。ソレデ良イデスネ?」
「ばっちりです。時間と空間の果てとおっしゃるのが、どこのことなのか、聞くだけに恐ろしいですが、たぶんばっちりです」
エドさんは、どこか疲れた表情の妻のそばで、肩を優しく抱きながら、そう答えました。クロエさんが疲れるのも無理はありません。なにしろ、渾身の力をもって、二枚の絵を立て続けに仕上げたのですから。
「いちおう、星に持ち帰っていただくのは、こちらの、『家庭の団欒』の絵のほうにしてください。こっちの、木炭のスケッチのほうは、ちょっと差し上げられませんので」
クロエさんはそういうと、エドさんにいいました。
「ねえ、あなた、いったい、なにが決め手になったの?」
「きみの絵だ。あんな幸せそうな親娘の絵を見たら、誰だって、女王さまの言葉を疑ったりできない。それに、グレンは、あの絵の通りになっているじゃないか」
そうです。グレンの背中の羽は、絵に描かれていたとおり、こうもりの翼から、美しい蝶の羽へと変わっていたのでした。心なしか、グレンの顔も、いくらか女の子らしくなってきたように思えます。
「わたしは、最後には、人を信じることに決めたって、便利屋を始めるときにそういっただろう? 疑うこともいいが、わたしは自分の心を信じて、悪魔の罠に勝ったんだ」
「勝ったついでに、あなた、アイスクリームをもう一皿、取ってきてくれない? もう、疲れて、疲れて」
「それはいいけど、よく食べるね、クロエ」
「甘いものがおいしいっていうのは、健康の秘訣よ」
エドさんは苦笑すると、冷蔵庫にアイスクリームを取りに行きました。皿に取って戻ってくると、クロエさんが寂しそうに言いました。
「アリントン夫人もいたらよかったのに」
「昨日、病院の医者からメールが来ていた。失語症の回復は順調どころか奇跡的なものらしい。第一声が、『面白いことがあったんだって?』だとさ。今は、仲間外れにするなんてことをする村なんてこちらからお断りだ、ここを出て伯爵の島に引っ越すって、病室でぶつぶついっているらしい」
「そのほうが健康にはいいんじゃないのかしら。もう、わたしも、疲れるわ、眠いわ……いったいなんでなのかしら?」
妖精の女王さまが、顔を上げました。
「なんじゃ、そんなこともわからぬのか?」
「え?」
「これを最初に告げる栄誉が、わらわに与えられたこと、幸せに思うぞ、人間の女よ」
クロエさんをはじめとして、宇宙人を除くみんなが、その言葉の意味を反芻し、同時に声を上げました。
「ええーっ!」
- 関連記事
-
- エドさんと緑の森の家・12月30日
- エドさんと緑の森の家・12月23日
- エドさんと緑の森の家・12月16日
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[児童文学・童話・絵本]
~ Comment ~
Re: らすさん
一週間に一回の更新を通じて、半ばリアルタイムに一つの村の一年を追っていく、というのが当初のコンセプトでしたから、石にかじりついてでも一年間は続けるつもりでした。
よほどの天変地異でもなければ来週に無事完結するはずです。しかし、この残りわずか、という地点がいちばん危うい、とは徒然草も伝えるところであります。
もうひとふんばり!(^^)
よほどの天変地異でもなければ来週に無事完結するはずです。しかし、この残りわずか、という地点がいちばん危うい、とは徒然草も伝えるところであります。
もうひとふんばり!(^^)
こんばんは(´∀`)
宇宙人まで出てきましたか!
まぁジャンルが「童話」ですからね。
楽しければOKですね(^-^)
前回宇宙人が登場したのが4月29日ですか~
長く続いているシリーズなんですね。
文才のない自分には無理です(´Д⊂
素晴らしい!ヽ〔゚Д゚〕丿
宇宙人まで出てきましたか!
まぁジャンルが「童話」ですからね。
楽しければOKですね(^-^)
前回宇宙人が登場したのが4月29日ですか~
長く続いているシリーズなんですね。
文才のない自分には無理です(´Д⊂
素晴らしい!ヽ〔゚Д゚〕丿
ちなみに
Re: YUKAさん
前に出てきたでしょう……って、4月半ばのことなんかもう誰も覚えちゃいないって!(笑)
普通だったら捨てエピソードにする回も有効に活用する無駄のない男、スパイダーマッ!(いばれるか(笑))
普通だったら捨てエピソードにする回も有効に活用する無駄のない男、スパイダーマッ!(いばれるか(笑))
Re: limeさん
あの宇宙人を出したのは4月の半ばですからねえ。もうこんなところまで。時のたつのは早いものであります。
ちなみにこういう収拾のさせ方を、仏教では「他力本願」といいます(ウソ)
しかし今年がうるう年であったというのは書きはじめてから気づいたトラップであったなあ(^^;)
ちなみにこういう収拾のさせ方を、仏教では「他力本願」といいます(ウソ)
しかし今年がうるう年であったというのは書きはじめてから気づいたトラップであったなあ(^^;)
こんばんは^^
なんとまぁ~~宇宙人^^
クロエさんの絵には力があるってことですね!^^
次話の素敵な告知まで、楽しみにしています^^
クロエさんの絵には力があるってことですね!^^
次話の素敵な告知まで、楽しみにしています^^
まさか、宇宙人が最後には危機を救うとは。
いやもう、宇宙人でないと、むりか^^;
しかし、クロエさんの現代アート。そこまで魅力的なんですね。ちょっと妬けます。
次回は、素敵な告知が聞けそうですね。
最後の大団円。楽しみにしています。
いやもう、宇宙人でないと、むりか^^;
しかし、クロエさんの現代アート。そこまで魅力的なんですね。ちょっと妬けます。
次回は、素敵な告知が聞けそうですね。
最後の大団円。楽しみにしています。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: 椿さん
それに食べ過ぎているわけでもないですし大目に……(^^)