幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片004「従者に手渡した」

     ←断片003「身を包んだ皇子に」 →断片005「帝都の雑踏」
    (欠落)

    (皇子アヴェル・ヴァールは杯を?)従者に手渡した。

    「飲むがよい。神酒ではあるが、飲みやすいように零情報を加えてある」

     礼法にかなったやりかたでルジェは杯を受け取り、その液体を味蕾のうえで転がした。高濃度に圧縮された情報が喉と舌と脳細胞を焼く、生の神酒とは異なり、零情報、単なるゼロの羅列で割られたそれは、どこか芳香をも感じさせる舌触りだった。

     ……だが、おれは生の神酒を知ってしまった。それよりさらに強い、皇宮スヴェル・ヴェルームの味を知ってしまった。

     今となっては、スヴェル・ヴェルームに仕える皇子たちが、重度の情報刺激中毒症になってその座を追われるわけがわかる。

    「殿下。これはいかなる情報でございますか。わたくしめにはよくわかりませぬ」

    「危険すぎる情報だからな。心を空しゅうして、杯をもう一度見よ」

     ルジェは、主の言を不思議に思いながら杯を見……そして叫んだ。

    「じ、情報が! 情報が、視覚を通して表されている!」

     皇子アヴェル・ヴァールは笑った。

    「それは、『文字』という概念だ。今、お前は『書かれて』いるものを、『読む』ということそれ自体を学んだのだ」

     それは異様な体験だった。周囲の光景の中に溶かし込まれている、視覚メッセージを識域下に受け止めること、それが「読む」ということである。それが常識であったが、いま、この手中にある杯には、視覚メッセージとは完全に別個の、独立した情報が埋め込まれて……「書かれ」ているのだ。

     字というものは、単なる「音素」にすぎぬ、それが当たり前のことだったのだが。

    「しかしながら、殿下。これはまた、なんという粗雑な情報伝達手段でございまするか。わたくしめには、かような非効率、いかなる理由で用いられているのやら見当もつけかねまする」

    「無理もない。だが、十万年前、物理帝国華やかなりし時代には、この手段が普通だったのだ。それしか先史人は知らなんだといっていいだろう。それでは、支度を整えよ、ルジェ。錬金術師組合の賢者たちと、概念チェスをひと勝負に行くのだ。表向きは、単なるわが気晴らしのための悪癖であると信じ込まれているらしいがな」

    (欠落)
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【断片003「身を包んだ皇子に」】へ  【断片005「帝都の雑踏」】へ

    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    この小説、読んでいけばわかりますが、ファンタジーもなければ人情の機微もない、「ガチガチのSF」だったりします。

    結論を読んでも怒らないでくださいね(妙に弱気(^^;))

    顔をだすのがのんびりモードでごめんちゃい。

    こんな形で情報伝達をするのも便利だよね。
    だけど伝えるべき人が途絶えてしまえば終わりになってしまう。
    口伝と同じような気もする。
    ならば文字はというと叉しかりだったりする。
    唯、可能性としてあるのは途絶えたとしても文字が残っていれば解読をしてもらえるかもしれないという望み。
    なんてつまらんこと考えてしまった。

    この物語はファンタジーがたんまり。
    物語に漂う香りに酔っていくような感じが楽しい。

    Re: limeさん

    もう、異世界を描くのは難しいです。なにせ、「字」の定義ですら現代のわれわれとまったく別のパラダイムのもとでやっているやつらですから。

    行き詰まったら「弱肉雑食系」にシフトします。そういやあいつらの大学でも大学祭の季節だなあ……。

    なかなか、いろんな感覚を必要とする読み物ですね。
    この長編を読み終えたら、どこか未知なる感覚が開眼するような気が・・・。
    この(欠落)部分は、いつか埋められるのですか?
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【断片003「身を包んだ皇子に」】へ
    • 【断片005「帝都の雑踏」】へ