幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片101「「あたし?」」

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    「あたし?」

     続由美子は思わず叫んでいた。それぞれの席でPCに向かっていた他の研究員たちが、いっせいに非難のまなざしを送った。

     きまり悪げになりながらも、なおも信じられない。

    「どうしたんだ? 続研究員」

     遍教大学理工学部情報学科中島研究室、略称「中島ラボ」、学内での通称「中落ちラボ」の責任者、中島光三郎准教授が、席を立ってこちらに歩いてきた。

    「先生、見てくださいよこれ」

     続由美子は憤懣を顔に出してPCのモニタを指差した。

    「どこかのバカが、SELの中にいたずらプログラムを放り込んだらしいんです」

    「SELに?」

     SEL(Super Extracted Language:超抽出化言語)は、遍教大理工学部の隠し玉ともいえる人工言語だった。中島准教授が、本人語るところの「死ぬような思い」をして確保した予算で購入した、一世代前は世界最高水準だったスパコンのメモリをまるまる使って走らせている、「中落ちラボ」の血と汗と涙がぎっしり詰まったプログラムである。

    「いたずらプログラムか。それがほんとうなら、由々しき事態だが……いったいどこに?」

    「言語学専攻だったわたしには、スパコンに走らせるようなコンピュータプログラムの細かい技術はありませんが、これを見れば誰だってわかります。なんで、こんな三文小説を読まされなくちゃならないんですか」

     モニタには乱雑な記号が並んでいた。

     だが、現代日本に生きる日本人には、間違えるわけのないものが、そこにはあった。

    『……xceo >hoege12ngo3gog +ge2 dddd0034 h32喜んでこの生命を捧げましょう」 皇子アヴェル・ヴァールはルジェの返答に満足したようだった。「お前にはつらい定めではあろうが、やむを得ないのだ。われわれには、時間はいくらあっても足りることはないであろう」 皇子アヴェル・ヴァールは、何事かと雑音情報を飛び交わせる帝都の臣民に対し、蛇の叫びをもって沈黙させた。「連れて行け。わが忠実なる僕を、スヴェル・ヴェルームへ」 生ける皇宮スヴェル・ヴェルームは、皇子のその言葉に、墜ちてきた惑星のような巨体を震わせて、吼えた。 それは皇子アヴェル・ヴァールの軽挙を咎めるかのようにも、壮途を祝福するかのようにも響いた。「殿下……それで、『続 由美子』とは……」「結晶楼閣で、いやでもわかることだ。今は休め」219t6n09s4ogwojfs48bhwohsa……』

    「……これは?」

    「だから、いたずらプログラムですよ、先生。SELが、日本語で話すわけがないでしょう。カテゴリー作成機能をシミュレートするだけの能力しかない実験用言語なんですから、SELは」

    「続くん」

    「はい?」

    「これと同じような日本語の文章はあったか?」

    「ありました」

     続由美子はしぶいものでも食わされたかのような顔になった。

    「だいたい五つくらい……」

    「ということは、まだ探せばあるかもしれないな。研究員、すぐにそれを拾い出してくれ。拾い出したら、時系列順に、番号を振ってファイルしておくこと」

     え?

    「先生……正気ですか?」

    「フレミングも、ミスでしかないようなものから、塩化リゾチームやペニシリンを発見したんだ。どんなところに新発見のきっかけがあるかわからない」

     中島准教授は、好奇心の塊のようになってモニタを覗きこんでいた。その少年のごとき瞳を見て、続由美子は全てをあきらめた。一度こうなってしまったら、夢想家としての悪名も高いこの准教授を止められるものはなにもない。

    「続研究員」

    「なんですか」

    「アウトプットを常時監視してくれ。ぼくはこの続きが読みたい」

     続由美子は、声に出さずにうめいた。中落ちラボでいちばん下っ端の自分以外に、この労多くして退屈な任務をやらされるものがいるだろうか?
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    だから掃除がたいへんだと(^^;)

    続由美子さんについては、わたしの小説の中では愛着のあるキャラクターです。

    その割りにこの扱いはどうなのといわれてしまいそうですが。

    大学の研究室の風景にホッとする。
    続由美子が鍵なのかな。
    むう〜謎じゃ

    げっ!
    コメが消えたよぅ〜
    くそぅ!
    v-294して帰る。

    Re: しのぶもじずりさん

    ことはそう単純ではないのです。と書くと読者をどんどん減らしそうな気がする(^^;)

    図書館から借り出しては言語学とか言語哲学の本を読んだりしているのですが、読むたびに自分の勉強不足を痛感しています。だったら自信がつくまで書くな、といわれそうですが、こういうものは、なにか「書きたい!」と思った時に書かないと、いつまでたってもできないものでもありますので……。

    Re: LandMさん

    いったい、言語にとって真実とはなんだろう、と考えると、すさまじいまでの思考の泥沼に入っていきますからねえ。

    迷宮の入り口にすらたどり着けない(^^;)

    Re: 山西 左紀さん

    まだ全体の構想の一割にも達しておりませんので、ここでこれからの展開が読めたらすごいであります。

    作者としては、全体としては肩がこらずに楽しめるSFを書いていくつもりですが……。予定は未定です(えええー)

    しかし、書いていて思うのですが、どう見てもこれ、80年代SFだよなあ……(^^;)

    Re: limeさん

    おかしいなあそう簡単に先が読めない話を書いているつもりなんだけどなあ(棒読み)

    それは冗談として、タイトル通りのことはきっちりとやります。

    そのつもりです。

    問題はできるかどうかですが……(^^;)

    人工言語のプログラムに紛れ込んだ 日本語!
    そう言う事ですか。
    日本語は わりと得意な方だと思っているのですが、私にはさっぱり意味不明です。
    これから解き明かされていくのか楽しみです。

    プログラムにしても、人間にしても一種の指向性・方向性がありますからね。そこから例外が導き出されると・・・なにかそこから見つかるものがあるんでしょうね。ここから真実が見つかるのでしょうかね。。。

    来た来た~~
    なんとなく形になってきました。
    でもまだまだ大部分?いや結局すべてが謎ですね。
    続由美子頑張れ!

    そうか・・・・・・。
    ああ。ここで、ポールさんのカラーになった。
    そして、ちょっと今まで騙されてた感が、悔しいですね。
    なるほど。なんとなく読めてきました。

    このあと、この欠落部分を探ったりしますか?
    翻訳された物語は、このあとまた、絡んできたりするんですよね。
    いったい、どうなっていくのか。
    (私にも、理解できる物語だったらいいな・・・)
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