幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)
断片106「だっておかしいじゃありませんか」
「だっておかしいじゃありませんか。どうしてあたしなんですか」
「それはSELに聞いてくれ」
柴田の興奮はさめる様子はなかった。
「SEL自体のプログラムはクローズしている。大量のノイズを供給して一度走らせたSELは、カテゴリー化を膨大に進めることにより、人間のプログラム能力では追いつかないほどのモンスタープログラムになってしまう。いわば一種のブラックボックスだ。続研究員、それは知っているだろう?」
「それは知っていますが、なんでSELがあたしの名前にこうして極端な反応を見せるかなんですよ、問題は」
「だからそれはSELに聞け」
「聞けたら聞いてます!」
続由美子はいらいらしてきた。その間にも、SELのモニターは「続」「由」「美」「子」の文字を吐き出している。乱雑な、パターンもなにもみられない文字列だが、使われている文字はその四つだけなのだ。
『……続由美子子美続子由続美続子由美子子子子子続子由美美続子続由美続由美子美美続続続続子子子子由続美由由……』
「続研究員」
中島准教授が、会話に割って入ってきた。
「この原因がクラッカーのクラッキングによるものかどうかは別として、これはでかい収穫だ」
「先生まで」
「いいか。今回のSELの大目標は、SELがどうやってカテゴリーを作るかじゃないことはわかるだろう。カテゴリーを作る作業の中で、SELがどうやって『カテゴリーの意味』を見出すかということにあったわけだ。当然、デバグはやるが……SELにデバグという言葉がふさわしいかどうかは議論の余地があるかもしれないが、とにかくでバグはやるが、その目的は、プログラムエラーの原因追求というよりは、なにがプログラムを成功させる因子になったのかを突き止めることに重点がおかれることになる」
「あたしはそういう、人のいたずらに神聖な実験が影響を受けるのは許せないです!」
「神聖……そうかもしれないじゃないか。SELにとって、きみの名前を構成する漢字四文字は、神聖なものかもしれない。どうだ、神になった気分は?」
続由美子は大声で叫んだ。
「そんなもの、神でもなんでもありません!」
柴田研究員と同様、中島准教授も平気な顔をしていた。
「神うんぬんは冗談だが、たとえいたずらだとして、SELにこのようなふるまいをさせるジョーク・プログラムは、ぜひとも内容が見たいものだ。SELを作ったのはぼくたちだが、ぼくでも今のSELでこのようなプログラムを書くのは、まず不可能だからな。それに、続研究員」
「はいなんでしょうか先生!」
続由美子はやけくそになっていた。
「SELが語った物語の続きはどうなった?」
「続続由美子由美子の文字列に埋まって出てきませんよ! どうせなら、みんなで監視したらいいじゃないですか!」
「それもありだな」
どんどん、事態が考えた方向の逆へ逆へと向かっていく。続由美子は、この事態に対し、なにか議論の俎上に乗っていないなにかがないかどうか考えた。
「そもそも、あの物語自体に、不合理なところが。あの二人は、『続由美子』という文字がない状態から、どうやって『続由美子』という文字を読み取ったんですか!」
研究室じゅうに、妙な沈黙が流れた。
しかし、中島准教授のいったセリフは、続由美子の期待を大きく裏切るものだった。
「第三者……? われわれの知らない第三者の書いたテキストを、あの物語の中のふたりは読んでいる……?」
もう、研究室の誰もが敵に回ったようにしか、続由美子には思えないのだった。
「それはSELに聞いてくれ」
柴田の興奮はさめる様子はなかった。
「SEL自体のプログラムはクローズしている。大量のノイズを供給して一度走らせたSELは、カテゴリー化を膨大に進めることにより、人間のプログラム能力では追いつかないほどのモンスタープログラムになってしまう。いわば一種のブラックボックスだ。続研究員、それは知っているだろう?」
「それは知っていますが、なんでSELがあたしの名前にこうして極端な反応を見せるかなんですよ、問題は」
「だからそれはSELに聞け」
「聞けたら聞いてます!」
続由美子はいらいらしてきた。その間にも、SELのモニターは「続」「由」「美」「子」の文字を吐き出している。乱雑な、パターンもなにもみられない文字列だが、使われている文字はその四つだけなのだ。
『……続由美子子美続子由続美続子由美子子子子子続子由美美続子続由美続由美子美美続続続続子子子子由続美由由……』
「続研究員」
中島准教授が、会話に割って入ってきた。
「この原因がクラッカーのクラッキングによるものかどうかは別として、これはでかい収穫だ」
「先生まで」
「いいか。今回のSELの大目標は、SELがどうやってカテゴリーを作るかじゃないことはわかるだろう。カテゴリーを作る作業の中で、SELがどうやって『カテゴリーの意味』を見出すかということにあったわけだ。当然、デバグはやるが……SELにデバグという言葉がふさわしいかどうかは議論の余地があるかもしれないが、とにかくでバグはやるが、その目的は、プログラムエラーの原因追求というよりは、なにがプログラムを成功させる因子になったのかを突き止めることに重点がおかれることになる」
「あたしはそういう、人のいたずらに神聖な実験が影響を受けるのは許せないです!」
「神聖……そうかもしれないじゃないか。SELにとって、きみの名前を構成する漢字四文字は、神聖なものかもしれない。どうだ、神になった気分は?」
続由美子は大声で叫んだ。
「そんなもの、神でもなんでもありません!」
柴田研究員と同様、中島准教授も平気な顔をしていた。
「神うんぬんは冗談だが、たとえいたずらだとして、SELにこのようなふるまいをさせるジョーク・プログラムは、ぜひとも内容が見たいものだ。SELを作ったのはぼくたちだが、ぼくでも今のSELでこのようなプログラムを書くのは、まず不可能だからな。それに、続研究員」
「はいなんでしょうか先生!」
続由美子はやけくそになっていた。
「SELが語った物語の続きはどうなった?」
「続続由美子由美子の文字列に埋まって出てきませんよ! どうせなら、みんなで監視したらいいじゃないですか!」
「それもありだな」
どんどん、事態が考えた方向の逆へ逆へと向かっていく。続由美子は、この事態に対し、なにか議論の俎上に乗っていないなにかがないかどうか考えた。
「そもそも、あの物語自体に、不合理なところが。あの二人は、『続由美子』という文字がない状態から、どうやって『続由美子』という文字を読み取ったんですか!」
研究室じゅうに、妙な沈黙が流れた。
しかし、中島准教授のいったセリフは、続由美子の期待を大きく裏切るものだった。
「第三者……? われわれの知らない第三者の書いたテキストを、あの物語の中のふたりは読んでいる……?」
もう、研究室の誰もが敵に回ったようにしか、続由美子には思えないのだった。
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ポールさん
このお話、すごく面白いですよ。
でも、ここで封じるなんて拷問はやめてください。
小松左京賞なんてどうでもいいじゃありませんか!
このお話、すごく面白いですよ。
でも、ここで封じるなんて拷問はやめてください。
小松左京賞なんてどうでもいいじゃありませんか!
Re: limeさん
はたしてその読みは正しいのか、さてさて、って、まだ10分の1も話が進んでいない中、展開が最後までわかったら、わたし筆を折ってしまうと思います(^^;)
いっそのこと、この話は封じて、小松左京賞に送ろうかなあ……という向こう見ず的発想。でも、もうちょっと形が見えるまではおつきあいください。
いっそのこと、この話は封じて、小松左京賞に送ろうかなあ……という向こう見ず的発想。でも、もうちょっと形が見えるまではおつきあいください。
うーーん。
一番最初に感じたイメージが、ここでまた復活。
4文字でしょ? 物語。SF。欠落。
いやいや、全く的外れだったら恥ずかしいから、おとなしく読みます。
一番最初に感じたイメージが、ここでまた復活。
4文字でしょ? 物語。SF。欠落。
いやいや、全く的外れだったら恥ずかしいから、おとなしく読みます。
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Re: 山西 左紀さん
「やるぜ、父ちゃん、おれはやるぜ!」(星飛雄馬の声で)
最後まで書き続けてやりますのでその気でおつきあいください。がんばるぞー!!