幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片201「詩人は」

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     詩人は、このような醜い女をこれまでに見たことがなかった。

    「歌え! 砂河鹿!」

     観衆の野次に答え、鎖でつながれた、詩人の腰までの背丈しかない女は歌い始めた。

    「『あたし?』続由美子は叫んだ……」

     この荒れ果てた大地には似合わないようなみずみずしい声だった。ふっと、詩人は引き込まれるのを覚えた。

     砂漠だった。木の一本たりとも生えぬ、と古人なら歌うであろう。しかし、詩人は、木というものを、国王陛下の中庭に生えているものと、遥か過去の、この世が理想郷に近かったころを描いた絵でしか見たことがなかった。

     それに。

     おそらくは、ここにいる人間にとって、今聴衆により叫ばれた言葉や、砂河鹿が語っている物語の内容を知るものはおるまい。詩人ひとりを除いて。

     それにしても美しい声をしている女だ。おそらく、祖先は昔語りに聞く幻想帝国の歌い部だったに違いない。

     歌は朗々と続いた。

     詩人には確信するものがあった。遠方で発見された石板から命がけで拓本を取ってきたこの古文書に書かれている以上の内容を、この砂河鹿という矮人の女は知っているだろうという確信。それを、「文字」で記録することが、国王陛下からのご命令であり、詩人の職務であり、生きがいだった。

     もしかしたらと、詩人は考えた。

     手がかりになるかもしれないのだ。いつとも知れぬ過去に死んだといわれている、盲目にして白痴なる皇宮、スヴェル・ヴェルームの骸がどこにあるかについての。

     問題は、この女が、まともなことを話せるのかどうかであるが。

     詩人は物入れから砂漠蛙の脚の干物を取り出し、噛んだ。

     女の歌は、まだ続いていた。

     詩人もその声に唱和していた。この、まったく意味不明の歌を、いつの間にか……。
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    Re: ぴゆうさん

    努力はしたのですが……。悪戦苦闘の連続でしたここまで書いて。

    過去も未来も何もかも絡まっているよう。

    唯、続由美子とルジェを軸として読み進めていくしかないような。

    最初の淫靡で蠱惑的な雰囲気が壊れないことを願いつつ。
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