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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片203「図書館は少年の想像するよりも」

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     図書館は少年の想像するよりもはるかに、そうはるかに巨大なものだった。

    「すごい……」

    「この部屋だけではありません。隣の部屋も書庫になっています」

     司書の言葉に、少年はさらに瞳を輝かせた。

    「隣も! ここには、そんなにたくさんの本があるんですか!」

    「たくさんの本……そうですね。この図書館には、千冊ほどの本が収蔵されています」

     千冊! 少年はその膨大さに圧倒される思いだった。

    「それを、それをこのぼくが読んでいいんですか?」

    「読めたらの話です」

     司書は、ぴしゃりといった。

    「文字を使うには、高度な技術が必要です。きみがこれまで習ってきた民衆文字では、これらの本は読めません」

    「そのくらい……」

     知っている、といいかけた少年を、司書はあざ笑うような声で遮った。

    「きみはまだ知りません。幻想帝国の統制官たちが記した、いわゆる『統制文字』の文法は、一朝一夕で身につくものではないのです。そしてその文字が読めなければ、暗号じみた幻想帝国の歴史は語ることひとつできないのです」

    「でも、統制官たちは、幻想帝国を滅ぼしてしまったんでしょう? ぼく、昔話で聞きました。その帝国の歴史を学ぶのに、統制官の文字を習わなくちゃいけないんですか?」

    「ほかに手段がないのですよ。幻想帝国には、わたしたちが知る形での『文字』がなかったのですから。文字を再び作り出したのが、『統制官』たちなのです。それが、帝国の滅亡への、決定的な一撃になったのです」

    「本にそう書いてあるんですか?」

    「本に書いてあることだけが正しいことではないと、きみは知る必要がありますね。さて、これから、統制文字の授業にかかります。わたしがすべて教えます」

    「絶対、読めるようになってみせます」

    「それは頼もしい。とはいえ、この文字を学ぼうとしたものたちは、皆、十年もせずにやめていくものなんですよ。百人いたら、残るのは二、三人というところですね」

     少年は黙り込んだ。司書は苦笑した。

    「百人に対して二、三人、というのは、きみが思うよりもかなり大きな数なのです。勉強しなさい。今いえるのはそれだけです」

     司書は書庫の扉を閉め、ふたつの書庫に隣接した小部屋の鍵を開けた。

     授業が始まったのである。
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    ~ Comment ~

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    Re: ぴゆうさん

    そうおっしゃっていただくと、自分はこの話をもっと寝かせておくべきだったと忸怩たる思いになります。

    焦りすぎたのかもしれません。

    アレクサンドリア文庫
    今もあったらどれ程の知恵を齎してくれただろう。
    ロストテクノロジーも解決されたかもしれない。
    もったいないのぉ〜

    この少年が詩人なのだろうか?
    ・・・・うーー考えるのが楽しい〜

    Re: 山西 左紀さん

    「本」の概念や、一冊あたりの希少性が、今のわれわれとはまったく違うのです。製紙法の知識さえ失われて何千、いや何万年と経過していますしね。しかも古代文字ともなったら、読めるのはほんの一握りの超エリートだけです。……というはずだったのですが。

    それを考えると、よくも千冊も集めたものです。恐ろしいほどの富が費やされたことでしょうね。

    司書さんの語り口がすごく好きです。
    この断片がこの壮大な物語のどこにはまり込むのか?
    この発想だけで圧倒されてしまいます。

    「千冊」巨大な図書館に対して数的には大したことないように思えてしまいますが、一冊の単位に秘密が?
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