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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片204「詩人は鉄筆を取り」

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     詩人は鉄筆を取り、日乾しレンガの板にがりがりと文字を刻み始めた。

     相手がなにを刻んでいるかに気がついた役人の顔が、真っ青になった。

     詩人はからりと鉄筆を投げ出し、叫んだ。

    「この文字が読めるか。読めるなら読め、読んでみろ!」

    「統制文字……」

     役人は額から汗を流し、ぶるぶると首を左右に振った。

    「お許しください。統制文字を目にするのは、われわれには許されておりませぬ」

    「そして、ぼくは読むことを許された詩人だ。この村を通過するにあたり、これ以上に求めることがあればいってみろ。それだけの度胸があればだが」

    「お許しを。どうかお許しを。まさかあなた様が、『本を読める者たち』のひとりだとは、夢にも思わず……」

     役人はひざまずき、砂に顔を埋めるようにして許しを乞うていた。

    「わかったか。わかったら、ぼくとこの砂河鹿に、ただちに割り符を割れ。そして宿と食事を用意しろ。もちろん水はいうまでもないことだ」

     権力を振りかざして相手に譲歩を迫るのは、詩人の好むところではなかったが、事情が事情だった。

     天幕を大慌てで飛び出していった役人をにらみ、詩人は自分の書いた文字を眺めた。我ながら、なかなかうまく書けたものだ。

     ふと、詩人は興味を覚え、戯れに傍らにいた卑しき歌い手に聞いてみた。

    「砂河鹿、お前にはこれがなんと書いてあるか読めるかな?」

    「『続由美子』……」

     砂河鹿の答えに、詩人は目を見張った。

    「砂河鹿、お前は、お前は、『統制文字』が読めるのか?」

     砂河鹿は、いつもの曇った目に逆戻りした。

     詩人は、呆然と、文字と歌い手との間に視線を往復させることしかできなかった。
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    ええと、来週の月曜日あたりに明らかになりますが、断片200のシリーズは、わざと順番や時系列をごちゃまぜにして書いています。それにものっぴきならない理由がありまして(作者の(^_^;))

    砂河鹿さんは、すなかじか、と呼びます。意訳、ということになりますね。(こんな遠未来に意訳もなにもあったものではないですが)

    「古代文字」については……えっわたし、この200系列の断片で、古代文字だなんて書いたっけ?(蒼白)

    断片000系列の時代では、まだ「統制文字」が発明されていませんし、統制官運動が絶頂期を迎えて幻想帝国が傾くのはさらに後の話ですし。

    こんなややこしい話を始めるのはわたしには荷が重すぎたのかなあ(^_^;)

    前後の話と、繋がってるようで、時間と空間がずれていますか?
    単なるシーンの切り替えなのかな?

    砂河鹿って、何と読むのでしょう。
    この人、何か重要な位置にいるのでしょうね。
    ああ、更にわからなくなってきた・・・。

    ちなみに、『統制文字』と古代文字は、違うものなんですか?
    (なんか、質問だらけになってきた)

    Re: レルバルさん

    たぶんその考えは違うでしょうね。

    断言していいのかわたし(^_^;)

    本が読めるということはつまり……。
    まぁ、そういうことですよね……。
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