幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)
断片205「少年はかくも美しい人を」
少年はかくも美しい人を見たことがなかった。
「あのかたはどなたですか?」
平伏から身を起こした少年は、すぐそばでこれまた同様に平伏から身を起こした衛兵に尋ねた。
「お前みたいな子供が目にできるようなかたではないのだぞ」
衛兵の声も、どことなくぼんやりとしていた。
「あれは、陛下の奥方さまだ」
「えっ? じゃ、じゃあ、あの方が、王妃さまなの!」
「そうだ。難しい言葉を知っているなあ、小僧」
「もう、小僧なんていわれる歳じゃないぞ! ぼくは『本読み』なんだからな! まだ十だけれど」
最後のほうが小声になっていたことを見逃す衛兵ではなかった。
「男なら、もっとビシッとしゃべれ、ビシッと。しかし、お前さんだったのか、二年で『本読み』に認められた神童、っていうのは」
「ぼくを知っているの?」
少年は驚いた。
「知っているとも。噂話をすることでは、おれたちは料理女よりもひどいからな」
衛兵はにやりと笑った。
「これで、おれはちょっとしたネタを拾ったわけだ。図書館の神童、十にして奥方様の忠実な戦士となる」
「ぼくは『本読み』で、戦士じゃないったら!」
「そのふりはしておいたほうがいい」
衛兵が真面目な顔になったのを見て、少年ははっとした。
「どういうことなの?」
「恨みを買わない限りで、小賢しく生きろ。おれからの忠告だ。小賢しい人間、つまり小物は、誰からも『役に立つ道具』としてしか見なされない」
「いっている意味がよくわからないよ」
「じきにわかるようになる。小僧、お前は、まつりごとに関わるような人間じゃない。一生を本を相手に仕えていたほうが幸せな生活を送れるだろう」
「まつりごとなんかに関わりたくないよ、ぼく」
衛兵は首を振った。
「もう遅い。お前は、奥方様を見てあんな目になっちまった。小賢しく生きて、誰からも小物扱いされるよりほかに、長生きする道はないだろう」
「ほんと、なにいってるんだかわからないや。これなら、本を読んでいたほうが、よっぽどわかりやすいよ」
衛兵は笑った。
「そう、その調子だ、小僧」
「からかうのはやめてったら!」
「あのかたはどなたですか?」
平伏から身を起こした少年は、すぐそばでこれまた同様に平伏から身を起こした衛兵に尋ねた。
「お前みたいな子供が目にできるようなかたではないのだぞ」
衛兵の声も、どことなくぼんやりとしていた。
「あれは、陛下の奥方さまだ」
「えっ? じゃ、じゃあ、あの方が、王妃さまなの!」
「そうだ。難しい言葉を知っているなあ、小僧」
「もう、小僧なんていわれる歳じゃないぞ! ぼくは『本読み』なんだからな! まだ十だけれど」
最後のほうが小声になっていたことを見逃す衛兵ではなかった。
「男なら、もっとビシッとしゃべれ、ビシッと。しかし、お前さんだったのか、二年で『本読み』に認められた神童、っていうのは」
「ぼくを知っているの?」
少年は驚いた。
「知っているとも。噂話をすることでは、おれたちは料理女よりもひどいからな」
衛兵はにやりと笑った。
「これで、おれはちょっとしたネタを拾ったわけだ。図書館の神童、十にして奥方様の忠実な戦士となる」
「ぼくは『本読み』で、戦士じゃないったら!」
「そのふりはしておいたほうがいい」
衛兵が真面目な顔になったのを見て、少年ははっとした。
「どういうことなの?」
「恨みを買わない限りで、小賢しく生きろ。おれからの忠告だ。小賢しい人間、つまり小物は、誰からも『役に立つ道具』としてしか見なされない」
「いっている意味がよくわからないよ」
「じきにわかるようになる。小僧、お前は、まつりごとに関わるような人間じゃない。一生を本を相手に仕えていたほうが幸せな生活を送れるだろう」
「まつりごとなんかに関わりたくないよ、ぼく」
衛兵は首を振った。
「もう遅い。お前は、奥方様を見てあんな目になっちまった。小賢しく生きて、誰からも小物扱いされるよりほかに、長生きする道はないだろう」
「ほんと、なにいってるんだかわからないや。これなら、本を読んでいたほうが、よっぽどわかりやすいよ」
衛兵は笑った。
「そう、その調子だ、小僧」
「からかうのはやめてったら!」
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~ Comment ~
パズルのような、
神経衰弱のような
そんな楽しみを見つけて読んでいこう。
現代があって、
幻想帝国の過去と未来
それを繋ぐのが詩人なのかな?
むぅ〜
難しい。
今はわからないけど、きっと面白い答えが待っている。
神経衰弱のような
そんな楽しみを見つけて読んでいこう。
現代があって、
幻想帝国の過去と未来
それを繋ぐのが詩人なのかな?
むぅ〜
難しい。
今はわからないけど、きっと面白い答えが待っている。
- #10107 ぴゆう
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- 2013.03/18 15:49
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Re: ぴゆうさん