幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)
断片010「ルジェの目には黄金でできた紗に見えた」
(欠落)
(楼閣の門は?)ルジェの目には黄金でできた紗に見えた。
「来るのだ、ルジェ。何も恐れることはない。印さえお前の心にしっかりとあれば、ここは知識に満ち満ちた図書館であり、愉しき会話の場だ」
「はい、殿下」
意識体となったルジェは、礼法に従い、情報により編まれた紗に意識の手を伸ばし、触れ、めくった。
光が奔流となって流れ出してきた。光はルジェをとげとげしい刺激で包み、ひとつの問いとなった。
「問う。汝は何者ぞ」
「億兆の口を持ち、無限の知識を生み出す生ける皇宮スヴェル・ヴェルームに仕える百万の皇子のうちでもっとも気高きもの、皇子アヴェル・ヴァールが従者、刺青師のルジェ。光の城なる結晶楼閣に住まえる錬金術師組合の賢者たちよ、我に組合に対しての異心ありと思わば、その光の杖もてわれとわが意識を焼き尽くすがよい」
ルジェは、懸命になってそう答えた。
ひかりの刺激がいくらか弱くなった。
「ならば問う。知識とはなんぞ?」
「われらの知らぬ命題へ、光の道をかけることなり」
「光の道とはなんぞ?」
「論理印象なり」
「論理印象とはなんぞ?」
「かつて物理帝国の旧人たちは、記号をもって論理を究極的な原子一粒一粒に変えられると信じた。われら幻想帝国に住まうものは、そうした論理原子を信じぬ。われらは原子を印象でとらえる。それは光子が粒子でありながら波動であるのと同様、論理原子も粒子でありながら波動であるがゆえに」
「汝はこれなる光をいかに見るか?」
「光ならぬ光、霊ならぬ霊、情報ならぬ情報、論理ならぬ論理、不確定の確定、止揚されるべきにあらざるものの止揚そのもの、賢者の結晶を通して見られた光」
「賢者の結晶とはなんぞ?」
「憶測に毒されぬ視点そのもの」
今や光は、柔らかく暖かく、抱擁するかのように変わっていた。
「卑しき刺青師よ、われら錬金術師組合は汝を気高き皇子の従者と認める。来るがよい、知恵ある者にはここ以上の有意義な知の宝庫はない」
ルジェは目の前の光の奥に、壮大な伽藍があるのを知った。
「よくやった、ルジェ。お前は知恵ある者と認められた。錬金術師組合しか信じておらぬ知恵であるが、知恵には間違いあるまい」
ルジェは、主の手に支えられ、うながされるままに伽藍へと進んだ。
「なに、いつもの形式通りの問答だ、皇子アヴェル・ヴァール。おぬしの従者を疑っていたわけではない。ただし、妙な答えを返したら、その場で精神を焼き切ってしまおうと思っておったがな」
その声とともに、光で編まれた、老人の姿が現れた。
「賢者どの、あなたは……」
「ここでは身分の上下はなしだ。知に仕える者どうし、胸襟を開こうではないか」
老人はそういうと、光輝く襟元をなでた。
「わしはトリスメギストス。この皇子とはゲームを楽しむ仲だ。ルジェとかいったな。おぬしも達人同士の知恵の戦いを眺めるがよい。そのつもりでここへ連れてきたのであろう、皇子アヴェル・ヴァール?」
皇子(欠落)
(楼閣の門は?)ルジェの目には黄金でできた紗に見えた。
「来るのだ、ルジェ。何も恐れることはない。印さえお前の心にしっかりとあれば、ここは知識に満ち満ちた図書館であり、愉しき会話の場だ」
「はい、殿下」
意識体となったルジェは、礼法に従い、情報により編まれた紗に意識の手を伸ばし、触れ、めくった。
光が奔流となって流れ出してきた。光はルジェをとげとげしい刺激で包み、ひとつの問いとなった。
「問う。汝は何者ぞ」
「億兆の口を持ち、無限の知識を生み出す生ける皇宮スヴェル・ヴェルームに仕える百万の皇子のうちでもっとも気高きもの、皇子アヴェル・ヴァールが従者、刺青師のルジェ。光の城なる結晶楼閣に住まえる錬金術師組合の賢者たちよ、我に組合に対しての異心ありと思わば、その光の杖もてわれとわが意識を焼き尽くすがよい」
ルジェは、懸命になってそう答えた。
ひかりの刺激がいくらか弱くなった。
「ならば問う。知識とはなんぞ?」
「われらの知らぬ命題へ、光の道をかけることなり」
「光の道とはなんぞ?」
「論理印象なり」
「論理印象とはなんぞ?」
「かつて物理帝国の旧人たちは、記号をもって論理を究極的な原子一粒一粒に変えられると信じた。われら幻想帝国に住まうものは、そうした論理原子を信じぬ。われらは原子を印象でとらえる。それは光子が粒子でありながら波動であるのと同様、論理原子も粒子でありながら波動であるがゆえに」
「汝はこれなる光をいかに見るか?」
「光ならぬ光、霊ならぬ霊、情報ならぬ情報、論理ならぬ論理、不確定の確定、止揚されるべきにあらざるものの止揚そのもの、賢者の結晶を通して見られた光」
「賢者の結晶とはなんぞ?」
「憶測に毒されぬ視点そのもの」
今や光は、柔らかく暖かく、抱擁するかのように変わっていた。
「卑しき刺青師よ、われら錬金術師組合は汝を気高き皇子の従者と認める。来るがよい、知恵ある者にはここ以上の有意義な知の宝庫はない」
ルジェは目の前の光の奥に、壮大な伽藍があるのを知った。
「よくやった、ルジェ。お前は知恵ある者と認められた。錬金術師組合しか信じておらぬ知恵であるが、知恵には間違いあるまい」
ルジェは、主の手に支えられ、うながされるままに伽藍へと進んだ。
「なに、いつもの形式通りの問答だ、皇子アヴェル・ヴァール。おぬしの従者を疑っていたわけではない。ただし、妙な答えを返したら、その場で精神を焼き切ってしまおうと思っておったがな」
その声とともに、光で編まれた、老人の姿が現れた。
「賢者どの、あなたは……」
「ここでは身分の上下はなしだ。知に仕える者どうし、胸襟を開こうではないか」
老人はそういうと、光輝く襟元をなでた。
「わしはトリスメギストス。この皇子とはゲームを楽しむ仲だ。ルジェとかいったな。おぬしも達人同士の知恵の戦いを眺めるがよい。そのつもりでここへ連れてきたのであろう、皇子アヴェル・ヴァール?」
皇子(欠落)
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~ Comment ~
うっほほ
二重スリット実験を思い出しましたよ。
全く不思議な世界ですよね。
不思議だし、ありえないけど存在をしている。
目に見えている。
トリスメギストス、この賢者の登場で益々ややこしくなりそうな・・
私の頭でついていけるか・・心配じゃ。
二重スリット実験を思い出しましたよ。
全く不思議な世界ですよね。
不思議だし、ありえないけど存在をしている。
目に見えている。
トリスメギストス、この賢者の登場で益々ややこしくなりそうな・・
私の頭でついていけるか・・心配じゃ。
- #10169 ぴゆう
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- 2013.04/01 18:41
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Re: ぴゆうさん
この「結晶楼閣」についてはツッコミ出すときりがないので黙っておきます。これもひとつの戦術なのです(←ただの卑怯者(笑))