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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片011「概念チェスは」

     ←断片010「ルジェの目には黄金でできた紗に見えた」 →断片012「忍び寄ってくるものだ」
    (欠落)

     概念チェスは見ているぶんには面白かった。駒を動かすたびに、コマもルールもどんどん変化していくのだから、その変化を追うだけでもかなりの見ものなのだ。

     皇子が象の駒を第八の方向に向かって進めると、いつの間にか象は熊へと変化していた。それを賢者の歩兵が迎え撃つ。

    「それで」

     賢者はなにごともないようにいった。

    「スヴェル・ヴェルームはなにを吐き出したのだね」

     皇子もなにごともないように答えた。

    「帝国の滅亡」

    「あの物理帝国でさえも一万年の興隆ののちに滅びたのだぞ。興隆しない帝国は山ほどある。だからといって、滅亡しない帝国があると考えるのは、理に反しているとしかいいようがない」

     皇子は苦笑した。

    「論理空間に居を構えている錬金術師組合のものは、なんとものんきなものだな。だが、政に携わるわれわれ皇子としては、そう簡単にはいそうですか、と警告を無視するわけにもいかん」

    「それで……警告の内容は?」

    「詳しくはルジェに持たせたあの光を見ろ。そこに苦悶のメッセージとして合成してある」

     仰天したのはルジェのほうだった。

    「持たせた?」

    「ほう」

     賢者はルジェの手を取った。ルジェは、精神から、なにか、「名状しがたい嫌なもの」が、吸い取られていくような気分を味わった。

    「識域下に苦悶の光を与えることによって、この結晶楼閣を見たこととの動揺と見分けがつかないようにして偽装して持ち込んだか。そのような方法があったか。これは面白い」

    「ということは、賢者様は、苦悶中毒では……」

    「そんなもの楽しむやつの気が知れん。それで、その『統制官』『続由美子』という手がかりを解読してほしい、というのが真の依頼か」

    「頼まれてくれるか」

    「これほど面白い問題を渡されて興奮しない錬金術師がおるか」

    「反エントロピーのあれは」

    「研究段階だ。そう簡単に、代償なしにノイズから情報が取れれば、苦労はせん」

    「頼む。退廃しつつある錬金術師たちで、自分の慰みごととはみなさず誠意を持ってこの無茶な依頼にこたえてくれるのは、あなたしかいない」

    「気高きことこの上なき皇子が、そこまで人を褒めんでもよかろう」

    「前払いのようなものだ。王手。これで、その王は繭となる。三手もすれば、わたしのものだ」

     トリスメギストス師ははっとなって盤上を見た。

    「……なるほど。その手順があったか。この手順は報酬とは別にもらっておくぞ」

    「かまわない。わたしの発明ではない」

    「じゃあ誰の発明なんだ。……まさか?」

     皇子はにやりと笑った。

    「半分当たりだ。その手を考えついたのは、わたしの身体に彫られた蒼い龍。思考をうまい具合に歪ませてくれる。その龍がいなかったら、合理的すぎる攻めをして、師にやすやすと手を見抜かれてしまっただろうな」

    「わしに刺青を彫れというのか」

    「無理なことはわかっている。師の肉体はとうの昔に滅んでいるからな。それでは、わたしと従者は、しばしこの楼閣の見物をするとしよう。ルジェもいろいろと学ぶことがあるだろう」

    「勝手にせい」

     トリスメギストス師は現れたときと同様、唐突に消えた。

    「わたしの知る限り、不可能を可能にできる唯一の爺さんだ。さてとルジェ、幻想帝国ではすでに滅びた学問となった、整数論と記号学の研究施設を見物に行くか。文字を読むことを覚えたお前には、かなり面白い見ものであろうからな」

     皇子はルジェを連れて(欠落)
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    まさに「勢い余って力足らず」を地でいっているので、反省点ばかりであります。人間が描けていないといったらその通りで。

    人間を描きたくて書いている小説ではないのもたしかですが(汗)

    概念チェス
    なんと難しそうなゲーム。
    でも、パソ上でやるゲームだって考えようによってはそうとも言えなくない。
    触れるのは飽くまでもキーボード。

    でもこの世界はもっと進んでいるわけで、
    またまた、想像をたくましくする。

    ルジェも大変だなぁ〜
    皇子に生きた感じがしないのよね。
    賢者と変わらない感じ・・・
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