幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)
断片107「そうですか」
そうですか。感想などそれしか出てこない。
「結局、なにもかもさっぱりわからないってことじゃない」
続由美子は文書を整理してぼやいた。
ぐちゃぐちゃでできの悪い風刺小説を読んでいるようなものである。言語学者として、こんな毎日でいいのかと思えてならないが、仕事なのだからしかたがない。
結晶楼閣ねえ。
この顔の見えない作者は、現代のネット社会を風刺でもしているのだろうか。それにしては風刺のピントがあっていない気がする。結晶楼閣というアイデア自体が、今のネットのコミュニケーションそのものだ。古さは否めない。
文中で語られる、技術と知識の乖離についても、昔カール・セーガンか誰かがいっていたことの受け売りだ。技術のみが存在する世界とは、古代エジプトのアナロジーで、知識のみが存在する世界とは、かなり歪めた古代ギリシアのアナロジーだろう。
どうせやるなら、こんなクラッキングなんかしていないで、普通に現代日本の批判をやればいいのに。現代日本は、さらにすごいわよ。知識も技術も、政治も経済も、なにもかもが、ボタンのかけ違い大会をしているような、なんともかみ合わない停滞しまくった国家なんだから。こういうのを、普通は頽廃というんじゃないの? 世紀末にきちんと滅んでおくべきだったのよね、この国。
ぶつぶつと文句ばかりがこぼれる。コンビニで酒でも買って帰ろうかしら。どうやらこの一連の文章は、続由美子本人がSEL端末の前にいないと出てこないらしい。勤務時間も終わったことだし、気にしないでさっさとアパートに帰ればいいものなのかもしれないのだが。
「文章の量で給料が出来高払いになったらやだもんねえ」
文章が出なくなったというだけの理由で、せっかくこの就職氷河期のなかありついた『中落ちラボ』の職を失いたくはない。もしそうなったら、泣いて実家に帰るしかないが、実家に帰ったところで居場所などはない。なにせ、自分は、親の期待を完膚なきまでに裏切った娘なのだから。
「外人と恋愛なんかするんじゃなかった」
続由美子はつぶやき、つぶやいてから立ち上がった。
アパートに帰り、帰りがけにスーパーの二百九十八円弁当と紙パック入りの日本酒を買い、テレビでつまらないハリウッドアクション映画でも見て……。
わびしかった。
だが……。
続由美子は、一人きりになってしまった研究室の中を見た。
ここよりは、まだましだろう。固い椅子に、尻も痛くなってきたことだし。やはり、どうしても、人間、最後には散文的になってしまうのだろうか。
「結局、なにもかもさっぱりわからないってことじゃない」
続由美子は文書を整理してぼやいた。
ぐちゃぐちゃでできの悪い風刺小説を読んでいるようなものである。言語学者として、こんな毎日でいいのかと思えてならないが、仕事なのだからしかたがない。
結晶楼閣ねえ。
この顔の見えない作者は、現代のネット社会を風刺でもしているのだろうか。それにしては風刺のピントがあっていない気がする。結晶楼閣というアイデア自体が、今のネットのコミュニケーションそのものだ。古さは否めない。
文中で語られる、技術と知識の乖離についても、昔カール・セーガンか誰かがいっていたことの受け売りだ。技術のみが存在する世界とは、古代エジプトのアナロジーで、知識のみが存在する世界とは、かなり歪めた古代ギリシアのアナロジーだろう。
どうせやるなら、こんなクラッキングなんかしていないで、普通に現代日本の批判をやればいいのに。現代日本は、さらにすごいわよ。知識も技術も、政治も経済も、なにもかもが、ボタンのかけ違い大会をしているような、なんともかみ合わない停滞しまくった国家なんだから。こういうのを、普通は頽廃というんじゃないの? 世紀末にきちんと滅んでおくべきだったのよね、この国。
ぶつぶつと文句ばかりがこぼれる。コンビニで酒でも買って帰ろうかしら。どうやらこの一連の文章は、続由美子本人がSEL端末の前にいないと出てこないらしい。勤務時間も終わったことだし、気にしないでさっさとアパートに帰ればいいものなのかもしれないのだが。
「文章の量で給料が出来高払いになったらやだもんねえ」
文章が出なくなったというだけの理由で、せっかくこの就職氷河期のなかありついた『中落ちラボ』の職を失いたくはない。もしそうなったら、泣いて実家に帰るしかないが、実家に帰ったところで居場所などはない。なにせ、自分は、親の期待を完膚なきまでに裏切った娘なのだから。
「外人と恋愛なんかするんじゃなかった」
続由美子はつぶやき、つぶやいてから立ち上がった。
アパートに帰り、帰りがけにスーパーの二百九十八円弁当と紙パック入りの日本酒を買い、テレビでつまらないハリウッドアクション映画でも見て……。
わびしかった。
だが……。
続由美子は、一人きりになってしまった研究室の中を見た。
ここよりは、まだましだろう。固い椅子に、尻も痛くなってきたことだし。やはり、どうしても、人間、最後には散文的になってしまうのだろうか。
- 関連記事
-
- 断片108「いい具合に」
- 断片107「そうですか」
- 断片012「忍び寄ってくるものだ」
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~