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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片108「いい具合に」

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     いい具合に日本酒の酔いは回ってきたが、なかなか眠る気にはなれなかった。

     かといって、論文を書く気にもなれない。酒が入った頭で書く論文というものは、いったいどんなものなのだろう、と続由美子は脳細胞の隅で考えた。

     となると、考えることも決まってくる。

    「ディア……」

     MY DEAR。戯れにつけたそんな名前を、あの人は喜んで受け入れてくれたっけ。少なくとも、あたしの前ではそのふりだけはしてくれた。

     ぼんやりとその横顔を考えた。あれほど愛した人なのに、今は横顔すらも、記憶欠落のベールに何重もくるまれていた。心の底で自分が拒絶しているからだとは思いたくなかった。

     続由美子は紙パックのストローを強く吸った。アルコールの味しかしない酒だったが、ドラッグとしては申し分なかった。酒も酒で、ドラッグの一種であることには変わりはない。

    「さびしいよ、ディア……このままだとあたし、ほんとにアル中になっちゃうよ……」

     さびしくわびしい生活。自分が望んでなったこととはいえ、ひとりのアパートは、アラサーまでほんのわずかの、金も人生の切符もない文系女子研究者にはつらすぎた。

     どうしてあたし、国際結婚なんか、うまく行くなんて考えたんだろ。

     紙パックの日本酒を飲み干した。そのまま、続由美子はゴミ箱に紙パックと弁当のプラスチックトレイを放り込み、壁にもたれて視線を中空に漂わせた。

     会いたい……。

     会いたいよお……。

     続由美子は、頭を組んだ腕の中に埋めると、泣きはじめた。十五の少女のように泣いたが、大学院の修士課程を単位取得退学したものの耳には、それはいぎたない中年女の鳴き声にも聞こえてくるのだった。

     泣いた。ただ泣いた。それで何がどう変わるかといえば、何も変わらないことを、続由美子はいやというほど学んでいた。

     泣くか、テレビを見るか、寝るか。どれかだ。

     続由美子は寝ることを選んだ。売れ残りの女の誰も買わない寝姿だ。

     それで……。

     どうしてSELはあたしの名前にあれほど執着するのだろう?

     そんな疑問がふと頭をよぎったが、アルコールの酩酊には勝てなかった。

     続由美子は眠っていた。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    この後話はさらにぐちゃぐちゃな展開になっていきますが、ここらへんの続由美子の挿話は重要極まりないものとなります。

    もうちょっと準備するべきだった、と悔やんでいるシーンでもあります(汗)

    ただ泣く(T_T)
    それって一番のストレス解消法らしい。
    悲しい物語で泪するのが一番心にいいな。
    誰かさんの悲しさは誰かさんであって自分じゃない。
    だから、後がスッキリする。
    泣いてやったミタイナ。

    それと逆に自分の有り様で泣くのはキツイ。
    まざまざと現実に晒されているようで、
    泣いてる間も泣き終わった後もスッキリしない。
    孤独が沁みるだけだわ。

    明日の朝、由美子にはきつそう〜

    Re: limeさん

    そこらへんを細かく説明しだすときりがないのでここでは伏せで(^_^;)

    わたしの頭の中ではきちんと筋が通っているんですが。脳神経が切れていなければ(笑)

    これ、時代別で言うと、続由美子のいる現代が一番最初ですよね?
    現代の世界が滅んで、0系列になるんですよね??違ったかな?
    少しずつ探りをいれよう・・・・っと。

    Re: 矢端想さん

    寝ぼけて思いついたアイデアも使い物になったためしがないしなあ……(^^;)

    Re: 山西 左紀さん

    これからさらに話はわけがわからなく……。

    すみません……(汗)

    来年の末までにはなんとか結末をお見せしますので。

    私が何かかいているときはたいてい酒が入ってますが何か?
    でも酩酊状態でつくってまともなものは何一つできません。
    特に夜中に飲みながら書いたラブメールなんか絶対そのままうっかり送信しないように!
    「偶然いい結果を生む」なんてまずあり得ませんからっ!
    ・・・手紙しかない時代は翌朝冷静に読めて本当によかったですね。

    「アラサー女子」、私は全然守備範囲ですよ!(←だれがお前の話をしろとオッサン)

    すべての登場人物が断片の中をうろうろするので
    繋がらなくて苦労します。
    100番台は続由美子がなんとなく
    人の形をしてきたところです。
    飲み込みが悪いので、
    ゆっくりと確認しながらの読書になりますね。
    でも、そうやっても読みたいぐらい面白い、
    ということなんですけど……

    Re: LandMさん

    酒が入った状態でレポートや小説が書けたら、わたしは大学を中退せずにすんだかもしれません。毎晩アパートでひとり酒を飲んでいたからなあ(^^;)

    私は仕事のレポートは全部酒が入った状態で書いているんですけどね。。。この辺はポールさんの真面目さが入っている描写かもしれませんね。酒は飲んでも飲まれるな・・・ですけどね。
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