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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片109「あなたは」

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    「あなたは、どうしてそんな目をしているの?」

     半裸の姿のあたしが投げた問いに、あなたは答えたわね。

    「わたしにもわからない」

     その答えを聞いて、あたしは笑った。蒼い瞳。なんということもない、よくある瞳の色じゃない。

    「どうして、日本に来たの?」

     あの人は振り向いた。

    「きみに逢うためだ」

     その顔のまじめさに、どうしようもないほどの生真面目さに、あたしはまた笑った。どこのどいつが、そんな大時代的なセリフを、あんな顔でしゃべることができるんだ。

     それにしても、日本語がうまいひとだ。外人にしては、なまりもない。

    「あたしに逢って、こうすることが目的だったわけ?」

     あたしのいいかたに、あの人はちょっと眉をひそめた。

    「そういういいかたは気に入らないな」

    「だって、ほかにいいかたもないじゃない。あたしに逢いたがる王子様が、白馬に乗ってやってくるなんていう夢、あたしはとっくに捨てたんだから」

    「面白くない冗談だな。この国の人々は、みんなそういう冗談が好きなのか?」

    「あたしくらいね」

     あたしは、そういって立ち上がり、あの人の身体に背中から抱きついた。

    「高貴なるものには……」

    「ふさわしくないんでしょう。ほんと、王子様みたいな人ね」

     あの人は苦笑いした。

    「それで、きみは平民だというのか。平民であっても、心は貴族であるべきだ。そういうものだろう、きみ?」

    「それじゃ、この世界で、貴族である意味がなくなっちゃうじゃない」

    「貴族になるには条件がある。常に貴族として考え、行動できる人間であることだ。それは、きみが思うより難しい。わたしも、そのような人間は、あまり数多くを知っているわけではない」

     まじめな人だ。どこの国の人かは知らないが、そうとうな教育を受けてきたのだろう。

    「それで、あたしも、そうした貴族になれるかしら、ディア」

    「ディア……?」

    「大事な人ってことよ、マイ・ディア」

    「わたしに名を授けてくれるのか」

     あの人は、あたしをきつく抱きしめてくれた。

    「痛い、痛いわ」

     はっとしたように、あの人は腕から力を抜いた。

    「すまない」

    「……いいわ。それだけ、嬉しかったんでしょうから」

    「嬉しかった。なによりも。名前というものは、そのものの本質を決めるものだ。そんなわたしに、あえて、『大事な人』という名を与えてくれたのだから、これ以上嬉しいことがあるわけもない」

     わたしたちは笑い、ベッドに戻った。



     …………



     続由美子は目を覚ました。真っ暗な、すきま風吹く四畳半だった。

     どうして、相手の男が日本語ができただけで、あたしは名も知らぬ外国人と国際結婚までいけるのではなどと思ったのだろう、そう考えながら、続由美子はトイレに立った。

     たぶん世の中が不条理に見えて条理が通っているからだ、芳香剤を潜り抜けて広がるアルコールの臭いで満たされたトイレの中で、続由美子はそう悟った。

     甘い思い出など、悪魔にでも食われてしまえ。どうせこのまま、人知れず中年になって老年になるのが研究職を選んだ女の定めだ。

     続由美子は手を洗って布団に戻ると、今度は夢のひとつも見ずに朝まで眠った。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    そうか女性はこういう言葉に弱いのか。φ(._.)メモメモ

    このふたりの挿話についてもきっちり回収しますが、はたしてそのときウケるかについては……ごにょごにょ。

    女のツボを心得ていますノォ〜
    「きみに逢うためだ」
    もうクサかろうが何だろうが、
    こんなことを言われてコロリといかん女はいない!

    うらやましい~

    でもこれって過去なんだよね。
    二人は何がどうしてどうなってんだ

    Re: レルバルさん

    こういう話になるととたんにみんな食いつきがよく……(^_^;)

    愛っていいですねぇ

    Re: 山西 サキさん

    あっ! なんだそのすべてを見透かしたような笑いは!

    もしかして全部バレてる?(^_^;)

    Re: limeさん

    人気あるなこいつ。

    こういうキザなやつは近づけないほうがいいですよ。命にかかわります(笑)

    Re: LandMさん

    こういうことを書いていると、ああ自分は汚れてしまったなあと思います。

    まあこの歳で汚れてないほうが異常ですけれど。

    ふふふ……

    おや。
    どこかの時代の誰かか?
    交差してしまうのでしょうか。

    だれですか、この青い目のキザな人。
    こっちにいらっしゃいよ、名前つけてあげるから。
    (酔っ払ってはいません)

    「きみに逢うためだ。」
    ・・・といえる人が実際にどれだけいますかね。
    この世の中で・・・。
    とふと考える一節でした。
    情愛とは深いものです。
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