幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)
断片110「昨晩」
昨晩、変な夢を見たせいか、続由美子はなんとなく食が進まなかった。
「二百十円になります」
レジのおばちゃんに小銭を払い、塩鮭定食のトレイを持ち上げる。正確には、塩鮭抜きの塩鮭定食だ。小ライスと味噌汁と柴漬け。
ふと、学食を見渡すと、知った顔がいた。
「空いてる?」
サンマの塩焼きに揚げだし豆腐まで並べた定食の横で、分厚い法律関連の本を読んでいた高梨しずかは、顔を上げると、軽くうなずいた。
「続、あなた、そんな禅寺みたいな食事してると、倒れるわよ」
「食べたくないのよ」
続由美子はトレイを置いて腰を下ろした。
「どうしたの? ふられたような面して」
「半分当たり。ふられたときの夢を見たの」
高梨しずかは笑わなかった。
「あの日本語のうまい外人さんの話?」
「外人、なんていうと怒るだろうけどね」
続由美子はしばらく赤だしの味噌汁をにらんでいたが、やがて割り箸を割ると、ひとすすりした。きつい赤味噌としじみの味が、いくらか脳細胞を活性化させた。
「外国人留学生なんかとつきあうもんじゃないわよ」
「カバ研に連れてきてくれるのを楽しみにしてたのにね、みんな」
「あたしがバカだったのよね。わずか三日の逢瀬で、いくところまでいっちゃって。周囲に吹聴までして、気がついたら逃げられてた。我に返ったときには写真の一枚もなし。みんなの同情の視線が痛いこと痛いこと」
「続……」
「まあそれはいいとして、迷惑だったのが、『ふられ女は落としやすい』なんて根拠不明の迷信から迫ってくる頭の悪そうなチャラチャラしたやつら。あたしはなにか、性的欲求不満のかたまりかっつーの」
続由美子は朝食をがつがつと食べた。
「あいつにもう一度遭う機会があったら、絶対許さないし、グーで殴ってやらなくちゃ気が済まないけど、未だにね……」
続由美子は茶碗を置いて下を向いた。
「続、あなた、お人好しにもほどがあるわよ」
「いいじゃない、本人が騙されてるって知ってるんだから。未だに、あの人は、なにか自分でもどうにもならない理由があって、心ならずもあたしを捨てたんだって幻想を抱いていてもいいじゃない!」
「……続」
「ごめん」
「少なくとも、朝に学食で話すタイプの話題じゃなかったわね」
「わかってる」
ふたりはしばらくの間、黙って食事をした。
「あ、続」
「なあに?」
「二百十円になります」
レジのおばちゃんに小銭を払い、塩鮭定食のトレイを持ち上げる。正確には、塩鮭抜きの塩鮭定食だ。小ライスと味噌汁と柴漬け。
ふと、学食を見渡すと、知った顔がいた。
「空いてる?」
サンマの塩焼きに揚げだし豆腐まで並べた定食の横で、分厚い法律関連の本を読んでいた高梨しずかは、顔を上げると、軽くうなずいた。
「続、あなた、そんな禅寺みたいな食事してると、倒れるわよ」
「食べたくないのよ」
続由美子はトレイを置いて腰を下ろした。
「どうしたの? ふられたような面して」
「半分当たり。ふられたときの夢を見たの」
高梨しずかは笑わなかった。
「あの日本語のうまい外人さんの話?」
「外人、なんていうと怒るだろうけどね」
続由美子はしばらく赤だしの味噌汁をにらんでいたが、やがて割り箸を割ると、ひとすすりした。きつい赤味噌としじみの味が、いくらか脳細胞を活性化させた。
「外国人留学生なんかとつきあうもんじゃないわよ」
「カバ研に連れてきてくれるのを楽しみにしてたのにね、みんな」
「あたしがバカだったのよね。わずか三日の逢瀬で、いくところまでいっちゃって。周囲に吹聴までして、気がついたら逃げられてた。我に返ったときには写真の一枚もなし。みんなの同情の視線が痛いこと痛いこと」
「続……」
「まあそれはいいとして、迷惑だったのが、『ふられ女は落としやすい』なんて根拠不明の迷信から迫ってくる頭の悪そうなチャラチャラしたやつら。あたしはなにか、性的欲求不満のかたまりかっつーの」
続由美子は朝食をがつがつと食べた。
「あいつにもう一度遭う機会があったら、絶対許さないし、グーで殴ってやらなくちゃ気が済まないけど、未だにね……」
続由美子は茶碗を置いて下を向いた。
「続、あなた、お人好しにもほどがあるわよ」
「いいじゃない、本人が騙されてるって知ってるんだから。未だに、あの人は、なにか自分でもどうにもならない理由があって、心ならずもあたしを捨てたんだって幻想を抱いていてもいいじゃない!」
「……続」
「ごめん」
「少なくとも、朝に学食で話すタイプの話題じゃなかったわね」
「わかってる」
ふたりはしばらくの間、黙って食事をした。
「あ、続」
「なあに?」
- 関連記事
-
- 断片111「高梨しずかは」
- 断片110「昨晩」
- 断片109「あなたは」
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
恋愛って時間でも日数でもないよね。
温度だと思う。
合わないなら何の変化も起きないのに、
合うとなると途端に変化が起きる。
凄まじく燃焼して消えてしまうものあれば
融合して一つになるものもある。
そんな感じがする。
ディア、何か繋がってきた気がするどーーー
コメが消えたーー
二度目だからコピーしたずら、何でやねん!
温度だと思う。
合わないなら何の変化も起きないのに、
合うとなると途端に変化が起きる。
凄まじく燃焼して消えてしまうものあれば
融合して一つになるものもある。
そんな感じがする。
ディア、何か繋がってきた気がするどーーー
コメが消えたーー
二度目だからコピーしたずら、何でやねん!
- #10297 ぴゆう
- URL
- 2013.04/22 17:13
- ▲EntryTop
Re: LandMさん
続さんにとっては、生涯一度というような思い出だったのでしょう。
そんな相手に三日で逃げられたら心の傷にもなりますわな。
まったくもう気の毒な人で……って、ほんとにそれだけの挿話で終わらせるとお思いになられていたら、それはわたしという人間を誤解している(^_^)
そんな相手に三日で逃げられたら心の傷にもなりますわな。
まったくもう気の毒な人で……って、ほんとにそれだけの挿話で終わらせるとお思いになられていたら、それはわたしという人間を誤解している(^_^)
ふられたときの夢というのは寝起きが悪いですね。
それに近い悪い夢を見るときはありますけど。
なかなかなんともいえない感じになりますね。
・・・まあ、10秒で気持ちが切り替わりますけど。
そんなことを気にしていたら、私の人生憂鬱ばかりなので。
それに近い悪い夢を見るときはありますけど。
なかなかなんともいえない感じになりますね。
・・・まあ、10秒で気持ちが切り替わりますけど。
そんなことを気にしていたら、私の人生憂鬱ばかりなので。
- #9474 LandM
- URL
- 2012.11/29 21:54
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: ぴゆうさん
この出会いがどういうことにつながっていくのかはこれからのお楽しみというところです。うまくつながったらごかっさい。
FC2、認識しないときは本気で認識しないもんなあ。かといってここを出たら行く場所ないし。
うまくいかんであります。