幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片208「隠者と呼ばれただけあって」

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     隠者と呼ばれただけあって、その老人には、どこかいわくいいがたい威厳があった。

    「きみが詩人か」

     声は、その外見から詩人が想像したよりもはっきりしていた。

    「ぼくを知っているのですか」

    「知っているとも。わたしは、きみをここに呼ぶためだけに、砂河鹿を外の世界へ遣わしたのだ」

    「非力な女を、ひとりきりでこの荒野へ?」

     詩人は怒りを覚えた。

     隠者はなだめるような視線で詩人を見た。

    「あれにはきみの文字と同じくらいの、誰にも負けない武器があった」

    「歌ですか」

    「歌声と歌詞の知識だ。それがきみをここまで連れてきた」

    「ぼくがこの女になにをしたか知っているんですか。ぼくは……この、この女から詩の知識を獲るためだけに、布帛を使ってこの女を買ったんだ!」

    「知っているとも。それでも、きみは砂河鹿をここに連れてきた。それでよくはないかね?」

    「砂河鹿はあなたにとって、なんなのですか!」

    「駒だ。そして、詩人、きみもひとつの駒にすぎない。むろん、わたしも」

    「誰が盤上で駒を動かしているんですか。あなたですか」

     隠者は首を振った。

    「誰か、遊び手がいればいいのだが、残念ながら、遊び手はいたとしても、われわれには理解不可能な存在なのだ」

    「神のことですか? 伝説に聞く、幻想帝国の、百万の口を持ち、一兆の姿形をとる、考え、しゃべる生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの骸のありかを、あなたはご存じなのですか?」

    「きみは詩人だろう。詩人なら、自分の直観で、どこに骸があるのかを洞察すべきではないのかな」

    「でも、隠者よ、あなたはご存じでしょう」

    「知っているとも。だが、きみは、大きな誤解をしている」

    「誤解?」

     詩人は隠者をまじまじと見た。

    「ぼくがなにを……」
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    ~ Comment ~

    Re: レルバルさん

    基本的に物々交換の世界ですから。

    やですね文明崩壊後の世界って(^_^;)

    砂漠ですか。
    詩人も詩人で……。

    ふむ……。

    Re: limeさん

    わたしはそういうかたちのコラボはこの小説内ではやってません。

    この小説は、愚直なまでに愚直な正統派SFを目指していますので。でもこういうときに限ってバカな話を書きたくなるんだよなあ。

    この小説自体がある意味一点のアイデアにかかっているので、お暇なかたは推測してみてください。まだ12%も終わっていませんけれど……。

    >百万の口を持ち、一兆の姿形をとる、考え、しゃべる生ける皇宮スヴェル・ヴェルーム。

    もしや、地獄の国税局!

    Re: LandMさん

    はっはっはっ。それは知りませんでした。(°°☆\(^_^;)コラ

    砂漠といっちゃ、作中のこのあたりはどこもかしこも荒野と砂漠ばっかりですので、単にひとりで暮らしているというだけのことですけどね。

    そこまで考えて伏線が張れたらいいのに、と思います。

    ああ、ようやく砂漠が繋がりましたね。
    隠者の語源が「そして砂漠に住むもの」ですもんね。
    ギリシア語でしたっけ?そこの辺りまではよく分からないのですが。こういうところで伏線があるのがすごいですね。
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