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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片209「勉強は過酷なものだった」

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     勉強は過酷なものだった。少年は覚えなくてはならない文字の数に頭がくらくらした。

     この文字とこの文字は、同じものなんじゃないですか、などといってしまったら大変だった。図書館司書は、少年の目から見ても公正で熱意ある教師だったが、公正で熱意ある教師にはつきものの悪徳も有していた。つまり、彼は出来の悪いと判断した学生には、情け容赦なく笞を振るったのである。

    「この文字とこの文字が同じですって? きみには、アヴェルとアヴェルが同じ言葉に聞こえるのですか?」

    「そ……そうとしか思えません、先生」

    「ほほう。アヴェル。それと、アヴェル。どちらが、幻想帝国の皇子ですか?」

    「アヴェルです……か、先生?」

     そう答えると、司書は烈火のごとく怒るのが普通だった。

    「あなたのいうアヴェルは、物理帝国時代の将軍です! 罰として、きみにはアヴェルとアヴェルの違いがわかるまで、発音練習を課します!」

     たった三人しか生徒のいない教室から、先輩がうなだれたまま連れていかれるのを、もうひとりの先輩が、少年に耳打ちした。

    「かわいそうに、あいつ、今晩は飯抜きだな」

    「でも……」

    「いいか、この授業のコツは、あの司書の出してくる二者択一の癖を覚えることだ。そうすれば、殴られる割合も減るし、飯抜きになるまでいびられなくてもすむ」

    「そういう問題なんですか?」

     少年は首をかしげた。

    「ぼくには、あのアヴェルと、次のアヴェルとの間には、よくわからないけれど、どこか違うところがあるように感じるんですけど」

     先輩は、ぎょっとした目で少年を見た。

    「わかるの? お前に? あの違いが? ウソだろ」

     先輩は、意地の悪い笑みを浮かべた。

    「ふうん。そうなら、そうでいいさ」

     司書が、憤然とした表情を変えずに戻ってきた。

    「先生、この新入生が、アヴェルとアヴェルの違いがわかるそうですよ」

     司書はちらりとその先輩と少年を見た。

    「少なくとも、きみはアヴェルとアヴェルの違いがわかっていないようですね。ではそこの新入生」

    「は、はい」

     司書は厚い本を開くと、その一文に指先を滑らせた。

    「読んでみなさい」

    「は、はい。ええと、アヴェルはアヴェルを……ここはわかりません……の咎で非難した」

    「きみ」

     先輩は、にやにや笑っていた。

    「はい」

    「完璧だ。素晴らしい。きみには、いつか本読みになる道が開けるだろう。十年、かからないかもしれない」

    「ありがとうございます!」

    「それで、今度はきみのほうだが」

     先輩の顔色が蒼くなった。笞が振るわれたのはそれからすぐのことだった。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    絶対音感、という以上のものが必要だと思われます。言語センスとか。「r」と「l」と「ラ行」の区別をもっと細かくしたレベルの話を毎日勉強しているわけですから……。

    絶対音感が必要なのかな?
    ちょっと出来るくらいの者には無理だわ。

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