幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片211「少年は好奇心から」

     ←断片210「王国の役人が」 →断片212「放浪者の生活は」
     少年は好奇心から、王宮を歩き回っていた。せっかく『本読み』になって通行証をもらったからには、その権利を行使して悪いわけもないだろう、というのが少年の考えだった。

     それにしても、王宮は広かった。あきれるほど大量の石で作られたこの建物は、少年にとっては、迷宮とも見えるのだった。そして、いつの世も迷宮というものは、少年の心を魅惑してやまないものがあるのだった。

     少年は、何の気なしに角を曲がった。

     いきなり、明るい世界に出た。そこが中庭であることに気づいたときは、少年の目の前には抜き身の剣が突き出されていたのだった。

    「小僧。どこへ行く」

     いくら少年が利発でも、目の前に刃が突き出される、というのは初めてに近い体験だった。自分が剣術はおろか、暴力にはまったく向いていない人間であることは、最初に練習用の剣を持たされそうになったときにいやというほど思い知らされている。

    「ど……どこだかわかりません」

     少年はどもりながら答えた。

    「どこへ行くのかもわからないのか! ここを、どこだとお前は考えているのだ!」

    「お……王宮です」

     少年の頭は、ぐるぐるとあさっての方向を向いて回転していた。あまりにも動転していたので、向かい合っているのが単なる王宮の衛兵で、その声にはこの子供をからかってやろう、という調子がありありとうかがえることにも気がつかなかった。

    「王家に仇なすものならば、小僧といえども容赦はせぬぞ」

    「た、助けてください! ぼくはそんなつもりで……」

     少年が誰か、救いの手を求めて周囲を見回したとき、中庭の奥から、誰かの声がした。

    「なんですの? 騒々しいこと。子供をいじめるだなんて、あまりほめられたことではありませんよ」

     少年は、その暖かく柔らかい声を聞いて、思わずそちらのほうを見た。

    「あっ……」

     少年の頭から、その場のなにもかもが雲散霧消した。

     それほどまでに、柔和にして洗練された女性の顔がそこにあった。

     次の瞬間、少年は先ほどの男の手により、頭をむんずと押さえつけられ、平伏させられていた。

    「あなた、衛兵としての仕事に熱心なのはわかりますが、子供には、優しく接してあげるのを忘れないでくださいね」

    「もったいない! この子供には、厳しくいいおいておきますので、なにとぞ、なにとぞ!」

     くすくすと笑う声が聞こえた。

    「だから、そうやって子供をいじめるのはおやめなさいというのに。許します、面をお上げなさい、そこな子供」

     少年は顔を上げた。

    「この王宮は、冒険するには面白いことばかりでしょうけれど、あまり大人の手をやかせるんじゃありませんよ」

    「は、はい!」

     少年は自分でもわからないなにかにより、頭が熱くなってぽおっとしてしまった。

     その夫人が背を向けた瞬間、再び少年はむんずと頭を押さえつけられ、平伏させられていた。

     少年は、さっきとは違うなにかにより、頭がぐるぐると回転してくるのを感じていた。

    「よし、もういいぞ。まったく、とんでもない小僧だな」

     少年は顔を上げ、衛兵と顔を見合わせた。よく見たら、ごつい風貌だが意外と親しみやすそうな雰囲気のおじさんだ、少年はそう思った。

    「あの……ぼく、ぼく」

    「こんなところまできてごめんなさい、位のことはいえないのかね、この小僧は」

    「こんなところまできてごめんなさい」

    「そう、それでいいんだ」

     衛兵は少年と向かい合った。
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    ちなみにこの断片211は、断片205の直前につながります。前にも書いた通り、この200系列は、時間のつながりがぐちゃぐちゃなものでして……(^^;) ある程度の法則はありますが(そうでないと作者のわたしが管理できない)

    読みにくいでしょうけれどどうかおつきあいください。

    ここの王宮も、かなり戒律の厳しい場所なのですね。
    少年、なにも悪いことしてないぞーーーと、少年びいきの私はつぶやく。
    でも、からかってみたくなる衛兵の気持ちは、よくわかります(変なひと)

    それにしても200系列も、まだまだつながりませんね。
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