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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片212「放浪者の生活は」

     ←断片211「少年は好奇心から」 →エドさんと緑の森の家・12月16日
     放浪者の生活は、意外なことに、王宮にいたよりも、ある意味楽しかった。いや、詩人にとって、自分がどれだけ世間のことにうとかったのかをいやというほど気づかされたのだったのである。

     まず、食べ物。王宮での食事が恋しくならない日がないといったら嘘だったが、飢えと直面した生活においては、もっとも安価で手に入る砂漠蛙の足の干物と、サボテンの茎から採るひと口の水が、どれだけの豪奢な食事に勝る味だかを詩人は肌で感じたのだ。それらは比肩しうるもののない、価値ある経験だった。

     詩人は、路銀にも苦労はしなかった。王宮の図書館でむさぼり読んだ、過去の幻想帝国時代の詩や風習の数々は、詩人の心の中に汲めども尽きぬ詩想を湧かせ、詩人はいつの間にか、詩を書いて一夜の宿代にする生活に慣れていった。

     おそらくは、それが政敵の狙いなのだろうと、詩人も気づいていた。表向きの使命である、王国各地に伝わる詩や物語の収集と文章化は生きがいになっていたし、自分の天職にふさわしいものだとは思っていたが、それでも真の使命については、一日たりとも忘れたことはなかった。

     忘れるには、美しい王妃様と……愛らしい王女様の面影は、詩人の脳裏に深く刻み込まれすぎていた。

     業病に犯された王妃様のお命を救うには、奇跡の力が必要だった。奇跡の力を使うためには、本によれば、神の言葉が必要だというのだ。

     もし、王妃様のお命が失われたら、王女様のお命も危うくなる。王宮づとめで、政争とその恐ろしさについては、詩人はいやというほどこの目で見てきた。自分がこうして旅の空にあるのも、王宮の口さがない人間たちは、政争に敗れた本読みの末路、と嗤っているのに違いないのだ。

     それはそれでいい。

     自分は、やることをやるまでだ。あの衛兵は、たしかに、ぼくの本質をずばりと見抜いていたな、詩人はそのときのことを思い返して、苦笑いするのが常だった。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    サボテンの水は、さすがにわたしも飲んだことはありませんが、「砂漠で渇き死にしかかっている」ようなときでもないと飲む気になれない味じゃないかと思われます。

    そうでもなければ、嗜好品として一般に出回っているでしょうしねえ(^^)

    満たされているときに食べる高級食材より飢えと乾きによる水の一杯の方が遥かに美味しいという話ですね。たしかにそれは言えますよね。満たされているときに食べるものは娯楽ですけど、渇きによる水の一杯は生命の謳歌を感じるときですからね。そのときほど幸せと美味しさを感じるときはないでしょうね。
    サボテンの水はよく聞く話ですが、実際にどんな味がするんでしょうか。。。
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