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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片018「それでも」

     ←断片017「どこから来たのか」 →エドさんと緑の森の家・12月23日
    (欠落)


    「それでもわたくしは、真実を知らねばなりません。わが主、皇子アヴェル・ヴァールがそう命じたからです」

    「止めはせんよ」

    「お教えください。情報の倉庫はどこにあるのですか」

     トリスメギストス師はばくぜんと周囲を指し示した。

    「それではなにも……」

     抗議しかけたルジェを、トリスメギストス師はやんわりと制した。

    「忘れたのかな。ここは情報の大海の中に築かれた、情報を学び考える場。すべての構築物はすなわち無尽蔵の情報を持つ倉庫であり、知識のかたまりじゃよ。ルジェ、お前さんもこの結晶楼閣の使い方を学ぶがいい」

     ルジェははっとして平伏した。

    「すみません、師よ、非礼なことを申してしまい……」

    「そんなことをせんでもいいのに」

     ルジェは顔を上げた。

    「非礼ついでにお聞きいたしますが、『統制官』とはいかなるものでありましょうや」

     トリスメギストス氏の答えは簡単だった。

    「わからん」

    「わからない?」

     トリスメギストス師は情報の壁に手に当たる部分を当て、なにかの情報を吸い取った。

    「わからん。よほどどうでもいい情報なのか、それとも巧妙きわまりなく隠しているのかはわからぬが、この物理帝国最後の百年の歴史にも、幻想帝国十万年の歴史にも、『統制官』という言葉が意味のある形をとって出てきたことは一度としてない」

    「では、なぜ、それが、畏れ多くも帝国没落の重要な鍵として出てくるのでありましょうや。『統制文字』とは何かかかわりがあるのでしょうや」

    「わからんものはわからんのだ、ルジェ。過去のことについては、ここに有り余るほどの情報があるが、未来のことについては、さすがに知るすべがない」

    「それでは、殿下は」

    「早まるな。あの皇子アヴェル・ヴァールは、あれなりに必死で調べているのだ。生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの中を。あの皇宮が考える、人智を超えた混沌の中に、未来の情報はあるのだからな。問題は、それを読み解く方法が、われら錬金術師組合の研究している反エントロピー技術か、そうでなければ、皇子たちひとりひとりのもつ『直観力』、すなわち混沌の中から有意な情報を大局的見地から引き出す力しかない、ということだ。反エントロピー技術はまだ研究中であるし、『直観力』ではほとんど、手がかりの一部でもつかめたら幸運の極み、という程度のものじゃ。皇子アヴェル・ヴァールはそのわずかな幸運に賭けて、精神が焼ききれるのではないかという情報媒体の山の中に籠っているのじゃ」

    「わたくしは……わが主、皇子アヴェル・ヴァールをお助けするためにいるのです」

    「では、なすべきことをしろ、としかわしにはいえんな。われわれの情報倉庫は、もしかしたらきみの想像とは違うかもしれん。われわれは、情報をあるがままの形で保存しておきたかったのだ。ゆっくり探したまえ、時間はたっぷりある。もしかしたら、きみは倉庫の中に居ついてしまうかもしれん」

    「どういうことでしょうか」

     トリスメギストス師の答えは、またも簡単だった。

    「入ってみればわかる。門をくぐりたまえ。今のきみなら、できるじゃろう」

     ルジェはいわれるがままに、手を柱に当てた。そうするのがいいと思ったからだ。そのまま、直感の導くままに柱を開き……。

     そこに扉があった。

    (欠落)


    ※ 本長編の次回更新日は1/7を予定しております。むろん、その間も、日記やその他ショートショートなどの更新は続けますので、どうか当ブログに遊びにいらしてください。お待ちしております。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    なんにせよ舞台が十数万年先なので、ムチャなテクノロジーを平然としゃべっているところがあります(^^;)

    マクスウェルの悪魔でもあるまいし、反エントロピーってなんだよ、の世界ですね。(^^;) 情報を雑音化するのに消費したエネルギー以上のエネルギーを使って、雑音から情報を再び引き出す、というアイデアですが、熱力学の法則にはぎりぎりのところで反して……いるよな、やっぱり(^^;)

    情報は情報であり、過去の集積でありますからね。
    そこから予想は出来ても、未来の確定事項は見つけられないですからね。
    それが因果なものですね。
    まあ、それができたら、競馬や賭博が成り立たなくなるか。。
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