「ショートショート」
SF
記者さんや?
記者さんや、きみのような若い者は知らんと思うが、FTLがまだ実用化されておらなんだひと昔前は、星間航行どころか、星系内の航行ですら命がけだったものじゃ。特におんぼろ航宙船しか使えない零細業者にとってはな。
今も忘れもせんが、わしらの船は、小惑星帯ででかい発見をした。まごうことなき、プラチナ含有率四十パーセントという希少鉱物小惑星じゃった。これを地球軌道に引っ張っていければ、莫大な収益になる。そうすれば、その莫大な富により、この船のローンを払い終えるどころか、会社の全員が何十エーカーもの農地がついた屋敷で引退生活に入ってもお釣りがくるというものじゃ。……生きて帰れたら、じゃが。
…………
「船長、地球軌道はどこでしょう?」
「おれが知るか、ハーマン! で、それはマジなのか、船のコンピュータが直る見込みがないってのは」
わしはエンジニアとして船に乗っている、新入りのハーマンに怒鳴った。怒鳴るしかなかった。わかっとったんじゃ、船が難破どころか、トロヤ軌道を回る小惑星のひとつになる定めしか残されていないというのは。非常灯ひとつしか点いていないコクピットというものは、人を不安にさせるものじゃぞ。
「生きているプログラムは……非常用手動操縦システムと、生命維持システムと」
「それから?」
「それだけです、船長」
わしは頭を抱えた。
「コンピュータに搭載されている星図は?」
「呼び出し不能です。さっきの隕石の衝突で、そこら辺のメモリーがごっそりといかれました。これだけ直っただけでも奇跡ですよ、船長」
「だからといって、おれたちの運命がどれだけよくなるっていうんだ。だいたいの位置でいい、計算で何とかならないか」
「そんなかゆいところに手が届くコンピュータがあったら、こんな苦労はしませんよ」
「よくいった。それでこそスペース・マンだ。スペース・マンの鑑だ。お前はこのおれに、トロヤ軌道から地球まで、手動での有視界航行をやれと、こういいたいのか?」
「無理ですか?」
「無理もクソも……」
そのとき、窓の外に、何かが見えた。
わしは隣にいるハーマンのヘルメットを強く揺さぶった。
「痛い、痛い、痛い。なにをするんですか」
「痛いよな。夢じゃないよな」
「どうしたんですか、船長?」
「われわれは、あの未確認物体の後を着いていく。エンジン点火」
「未確認物体って何ですか!」
「うるさい。復唱は!」
「は、はい、メインエンジン点火します!」
わしは操縦桿を握った。
…………
いまだに、ハーマンのやつは、わしの気がおかしくなったと思っているらしいんじゃ。気がふれて、幻覚を見たんじゃと。ふん、それがどうした。わしもハーマンも、会社のみんなも、こうして大もうけしたではないか。やはりあのプラチナ鉱石は、貧乏なわれわれにとってのプレゼントだったんじゃよ。
わしがどうやって地球軌道上へたどり着いたかって? 記者さんや、知っていて聞いておるんじゃろ? まあ、わしも、何回でもしゃべるがな。
わしがあのとき、航宙船の窓に見たのは、『トナカイの引く鈴のついたそりに乗る、真っ白い袋を抱えたサンタ・クロース』だったんじゃ。はるか地球へと、プレゼントを配りにいくその姿を、わしは目撃したんじゃ!
記者さんや。お前さんも、幻覚じゃと思っているんじゃな。ふん、まあいいわい。わしのこの立派な暖炉のある家と、女房と息子夫婦と孫たちに囲まれた暮らしを見れば、どんな馬鹿にだって、どっちが正しいかわかるはずじゃ。
それに、動かぬ証拠もある。わしらが地球港に帰ってきたのは、いったいいつのことじゃと思う?
地球時間で十二月二十五日、ちょうどその日だったのじゃよ! これが証拠でなければ、なんなのじゃね、え、記者さんや?
今も忘れもせんが、わしらの船は、小惑星帯ででかい発見をした。まごうことなき、プラチナ含有率四十パーセントという希少鉱物小惑星じゃった。これを地球軌道に引っ張っていければ、莫大な収益になる。そうすれば、その莫大な富により、この船のローンを払い終えるどころか、会社の全員が何十エーカーもの農地がついた屋敷で引退生活に入ってもお釣りがくるというものじゃ。……生きて帰れたら、じゃが。
…………
「船長、地球軌道はどこでしょう?」
「おれが知るか、ハーマン! で、それはマジなのか、船のコンピュータが直る見込みがないってのは」
わしはエンジニアとして船に乗っている、新入りのハーマンに怒鳴った。怒鳴るしかなかった。わかっとったんじゃ、船が難破どころか、トロヤ軌道を回る小惑星のひとつになる定めしか残されていないというのは。非常灯ひとつしか点いていないコクピットというものは、人を不安にさせるものじゃぞ。
「生きているプログラムは……非常用手動操縦システムと、生命維持システムと」
「それから?」
「それだけです、船長」
わしは頭を抱えた。
「コンピュータに搭載されている星図は?」
「呼び出し不能です。さっきの隕石の衝突で、そこら辺のメモリーがごっそりといかれました。これだけ直っただけでも奇跡ですよ、船長」
「だからといって、おれたちの運命がどれだけよくなるっていうんだ。だいたいの位置でいい、計算で何とかならないか」
「そんなかゆいところに手が届くコンピュータがあったら、こんな苦労はしませんよ」
「よくいった。それでこそスペース・マンだ。スペース・マンの鑑だ。お前はこのおれに、トロヤ軌道から地球まで、手動での有視界航行をやれと、こういいたいのか?」
「無理ですか?」
「無理もクソも……」
そのとき、窓の外に、何かが見えた。
わしは隣にいるハーマンのヘルメットを強く揺さぶった。
「痛い、痛い、痛い。なにをするんですか」
「痛いよな。夢じゃないよな」
「どうしたんですか、船長?」
「われわれは、あの未確認物体の後を着いていく。エンジン点火」
「未確認物体って何ですか!」
「うるさい。復唱は!」
「は、はい、メインエンジン点火します!」
わしは操縦桿を握った。
…………
いまだに、ハーマンのやつは、わしの気がおかしくなったと思っているらしいんじゃ。気がふれて、幻覚を見たんじゃと。ふん、それがどうした。わしもハーマンも、会社のみんなも、こうして大もうけしたではないか。やはりあのプラチナ鉱石は、貧乏なわれわれにとってのプレゼントだったんじゃよ。
わしがどうやって地球軌道上へたどり着いたかって? 記者さんや、知っていて聞いておるんじゃろ? まあ、わしも、何回でもしゃべるがな。
わしがあのとき、航宙船の窓に見たのは、『トナカイの引く鈴のついたそりに乗る、真っ白い袋を抱えたサンタ・クロース』だったんじゃ。はるか地球へと、プレゼントを配りにいくその姿を、わしは目撃したんじゃ!
記者さんや。お前さんも、幻覚じゃと思っているんじゃな。ふん、まあいいわい。わしのこの立派な暖炉のある家と、女房と息子夫婦と孫たちに囲まれた暮らしを見れば、どんな馬鹿にだって、どっちが正しいかわかるはずじゃ。
それに、動かぬ証拠もある。わしらが地球港に帰ってきたのは、いったいいつのことじゃと思う?
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~ Comment ~
Re: 山西 左紀さん
もうちょっと商売というものは融通の利くものでありますよ(^^)
すなわち、いきなり地球へ持っていくのではなくて、希少金属を扱うカルテルみたいな組織にまず打診をするわけでありますな。
小惑星を地球に下ろさずに衛星周回軌道を回らせることについて、一定期間の貸与権と引き換えに、「賠償金」なり「和解金」をもらうわけであります。
どうせ宇宙開発で、プラチナも希少金属もどんどん品薄になっていって高騰の一途をたどることは目に見えているわけでありますから、その物価を調整する手段として、カルテルにとってもこの小惑星は渡りに船というものであります。
筋さえ通せば、全員田舎で引退暮らしを楽しめるくらいの賠償金は引き出せるでしょうね。
そのほうが、波風も立たないしはるかにエレガントな解決法であります。みんな満足するし。
それが商売というものであります(^^)
すなわち、いきなり地球へ持っていくのではなくて、希少金属を扱うカルテルみたいな組織にまず打診をするわけでありますな。
小惑星を地球に下ろさずに衛星周回軌道を回らせることについて、一定期間の貸与権と引き換えに、「賠償金」なり「和解金」をもらうわけであります。
どうせ宇宙開発で、プラチナも希少金属もどんどん品薄になっていって高騰の一途をたどることは目に見えているわけでありますから、その物価を調整する手段として、カルテルにとってもこの小惑星は渡りに船というものであります。
筋さえ通せば、全員田舎で引退暮らしを楽しめるくらいの賠償金は引き出せるでしょうね。
そのほうが、波風も立たないしはるかにエレガントな解決法であります。みんな満足するし。
それが商売というものであります(^^)
まごうことなき、プラチナ含有率四十パーセントという希少鉱物小惑星…これを地球に持ち込まれたとたんプラチナ他希少鉱物の価格が大暴落する。それを阻止しようとする貴金属業界やレアメタル業界のヒットマンに追い回されるはめに。はたして儲かるのか?
Re: limeさん
このところ殺伐とした話しか書いていないのでたまには無性にこういう話が書きたくなるものなのであります。
それにクリスマスですし(^^)
それにクリスマスですし(^^)
クリスマスSS,ありがとうございます。
今年のはほっこりと、可愛らしいお話でしたね。
これはSFとファンタジーの、絶妙なハーモニーです!
しかし、サンタクロースは、実は宇宙から来てたんだとは・・・。
今年のはほっこりと、可愛らしいお話でしたね。
これはSFとファンタジーの、絶妙なハーモニーです!
しかし、サンタクロースは、実は宇宙から来てたんだとは・・・。
Merry Christmas !
ポール・ブリッツさん、いつもコメント有難うございます。
Merry Christmas !貴方にこそ素晴らしい聖夜で在りますように。
Merry Christmas !貴方にこそ素晴らしい聖夜で在りますように。
- #9579 弘と書いてひろむと読みます
- URL
- 2012.12/24 13:33
- ▲EntryTop
Re: 矢端想さん
宇宙の神秘であります……(^^)
やっぱり「SF」よりは「ファンタジー」かな、これ。
やっぱり「SF」よりは「ファンタジー」かな、これ。
メリークリスマス!
良いお話でした。
最後にもう一発どんでん返し的あざやかなオチがあるともっと良かったのですが。・・・いくらなんでもポール先生の天才に無茶な期待をしすぎか?
サンタさんはどこからきたんだ・・・!?
最後にもう一発どんでん返し的あざやかなオチがあるともっと良かったのですが。・・・いくらなんでもポール先生の天才に無茶な期待をしすぎか?
サンタさんはどこからきたんだ・・・!?
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Re: ダメ子さん