昔話シリーズ(掌編)
魔法のブーツの昔話
昔、昔、神々の山のふもとに、老いた靴作りの神と、その弟子の小神が小屋を作って暮らしておりました。靴作りの神には美しい娘がおり、弟子の小神と、互いに好き合うておりました。靴作りの神も、弟子の真面目な働きぶりをまことに気に入っておりましたので、ゆくゆくはふたりをめあわせてやろうと考えておりました。
こうして幸せに暮らしていた三人の神のもとへ、ある日山頂近くより美の神がやって来ました。
美の神は、靴を作ってもらうつもりでありましたが、靴作りの神の美しい娘を見ると、自分の嫁にせよと靴作りの老神に迫りました。位階のうえでは美の神に及ばなかったものの、娘をこの神と引き合わせれば、他の女神たちと同様、弄ばれて捨てられるだけだ、と悟るだけの賢明さはあった靴作りの神は、首を横に振って拒絶しました。
美の神は烈火のごとく怒り、靴作りの神をののしれるだけののしると、靴作りで勝負しようといいました。自分が勝ったら、娘をよこせというのです。
「負けたら?」
「この山の頂近く、自分の神殿のさらに上に、お前の神殿を建ててやる!」
「いいだろう」
「いいな! 靴をたくさん、民人に売ったほうが勝ちだぞ!」
そう叫ぶと、美の神は頼れる友を頼って、山の頂へと登って行きました。
どうしましょう、と不安がる弟子に、靴作りの神は微笑みました。
「ふもとで暮らして長いわれらに比べ、あの神は商売というものをわかっておらん。まあ見ておけ」
山頂近くの神殿で、美の神は友達の力を借り、究極の靴の製作に取りかかりました。それは優美さと実用性とを兼ね備えた魔法のブーツで、一度履くと二度と脱げなくなってしまうのでした。
これならあの老いぼれに負けるわけがない、意気揚々と下界に降りてきた美の神は、魔法のブーツを売り始めました。ブーツは飛ぶように売れました。美の神は、満足しきって神々の山に帰りました。
「よし、行くぞ、弟子よ」
美の神が帰ったのを見計らうと、靴作りの神と弟子は、山のような靴を担いで下界に降りました。
人々が寄ってきました。
「爺さん、それ、なんだい?」
美の神のブーツを履いた男が尋ねました。
「靴じゃよ。靴の上に履く靴じゃ。この靴を履くと、そのブーツが、とてもとても魅力的に見えるうえに、履き心地もさらによくなる。しかも、いくつもあるので、履き替えもおしゃれも自由自在じゃ。……ほれ。押すな。押すでない。靴は、まだまだたっぷりあるぞ……」
翌日、勝負の結果を見に、神々が山を降りてきました。勝敗は誰の目にも明らかでした。靴作りの神の完勝で、美の神は大いに面目を失いました。
約束通り、美の神は靴作りの神のために神殿を作らねばなりませんでした。いや、もう、靴作りの神ではありません。神々の王の裁定により、靴作りの神は、新たに『商売の神』になったからです。
靴作りの神の座は、真面目なのが取り得の弟子が跡を継ぎました。そして娘と契りを交わし、靴を作りながら仲むつまじく暮らしたそうです。
めでたし、めでたし。
こうして幸せに暮らしていた三人の神のもとへ、ある日山頂近くより美の神がやって来ました。
美の神は、靴を作ってもらうつもりでありましたが、靴作りの神の美しい娘を見ると、自分の嫁にせよと靴作りの老神に迫りました。位階のうえでは美の神に及ばなかったものの、娘をこの神と引き合わせれば、他の女神たちと同様、弄ばれて捨てられるだけだ、と悟るだけの賢明さはあった靴作りの神は、首を横に振って拒絶しました。
美の神は烈火のごとく怒り、靴作りの神をののしれるだけののしると、靴作りで勝負しようといいました。自分が勝ったら、娘をよこせというのです。
「負けたら?」
「この山の頂近く、自分の神殿のさらに上に、お前の神殿を建ててやる!」
「いいだろう」
「いいな! 靴をたくさん、民人に売ったほうが勝ちだぞ!」
そう叫ぶと、美の神は頼れる友を頼って、山の頂へと登って行きました。
どうしましょう、と不安がる弟子に、靴作りの神は微笑みました。
「ふもとで暮らして長いわれらに比べ、あの神は商売というものをわかっておらん。まあ見ておけ」
山頂近くの神殿で、美の神は友達の力を借り、究極の靴の製作に取りかかりました。それは優美さと実用性とを兼ね備えた魔法のブーツで、一度履くと二度と脱げなくなってしまうのでした。
これならあの老いぼれに負けるわけがない、意気揚々と下界に降りてきた美の神は、魔法のブーツを売り始めました。ブーツは飛ぶように売れました。美の神は、満足しきって神々の山に帰りました。
「よし、行くぞ、弟子よ」
美の神が帰ったのを見計らうと、靴作りの神と弟子は、山のような靴を担いで下界に降りました。
人々が寄ってきました。
「爺さん、それ、なんだい?」
美の神のブーツを履いた男が尋ねました。
「靴じゃよ。靴の上に履く靴じゃ。この靴を履くと、そのブーツが、とてもとても魅力的に見えるうえに、履き心地もさらによくなる。しかも、いくつもあるので、履き替えもおしゃれも自由自在じゃ。……ほれ。押すな。押すでない。靴は、まだまだたっぷりあるぞ……」
翌日、勝負の結果を見に、神々が山を降りてきました。勝敗は誰の目にも明らかでした。靴作りの神の完勝で、美の神は大いに面目を失いました。
約束通り、美の神は靴作りの神のために神殿を作らねばなりませんでした。いや、もう、靴作りの神ではありません。神々の王の裁定により、靴作りの神は、新たに『商売の神』になったからです。
靴作りの神の座は、真面目なのが取り得の弟子が跡を継ぎました。そして娘と契りを交わし、靴を作りながら仲むつまじく暮らしたそうです。
めでたし、めでたし。
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~ Comment ~
Re: 名無しさん
商売をするには人の心理の底を読むのが大事……なのかもしれません。
それを考えると、やっぱりわたしには商売は向いてないみたいです(^^;)
それを考えると、やっぱりわたしには商売は向いてないみたいです(^^;)
アイデア商品
アイデアでおおもうけするカリスマ主婦が、頭をよぎりました。美の神さまはさすがにいいの作り増すが、芸術性ばかり
頭が行き勝ちで、そこから派生させて考えるのが苦手そうです。大体のクリエイターが当てはまりそうな罠ですよねこれ。
頭が行き勝ちで、そこから派生させて考えるのが苦手そうです。大体のクリエイターが当てはまりそうな罠ですよねこれ。
- #9618
- URL
- 2012.12/29 14:16
- ▲EntryTop
Re: 面白半分さん
「優れたものをひとつ」作るよりも、「手軽なものをたくさん」作ったほうが儲かる、ということで……。
わたし小説書くよりベンチャー企業を立ち上げたほうが出世したのかなあ(そして三ヶ月で潰れる(笑))
わたし小説書くよりベンチャー企業を立ち上げたほうが出世したのかなあ(そして三ヶ月で潰れる(笑))
Re: 山西 左紀さん
商才なんかありません(^^;)
思いつきはあったとしても完全にアイデア倒れです(^^;)
それはわたしの同人誌の売り上げが何よりも雄弁に語っています(^^;)
商売をやっていたら確実に破産してますよ(笑)
思いつきはあったとしても完全にアイデア倒れです(^^;)
それはわたしの同人誌の売り上げが何よりも雄弁に語っています(^^;)
商売をやっていたら確実に破産してますよ(笑)
めでたしめでたし……って
ポールさんって希少鉱物小惑星のお話とか商才がありますね。
こういうお話大好きです。
ハッピーエンドだし。
ポールさんって希少鉱物小惑星のお話とか商才がありますね。
こういうお話大好きです。
ハッピーエンドだし。
Re: 矢端想さん
えっ、わたしは「赤い靴」からヒントを得てですね(大ウソ)
しかし商売というのも奥が深いですなあ。
しかし商売というのも奥が深いですなあ。
わかります。「魔法の黄色いブーツ」ですね。(若い人にゃわからないか)
裸足族の島に流れ着いた二人の靴のセールスマンの寓話を思い出しました。マーケティング論の話ですね。
裸足族の島に流れ着いた二人の靴のセールスマンの寓話を思い出しました。マーケティング論の話ですね。
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Re: kyoroさん
日本の未来は子供たちにかかっていますし。
でもその前に、誰か絵本にしてくれる人~(^_^;)