「ショートショート」
    ホラー

    来年の雑誌

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     ぼくは古本屋からぶつぶついいながら出てきた。買いたい本が一冊もなかったのだ。まったく、新刊古書店というやつには、風情もなんにもありゃしない。聞いた話じゃ、昔は、こう小さな店で、間口がこう狭くて、もっとこう混沌としていて、なにが売っているのかわからないアングラな感じが……。

    「マンガはいらんかね」

     齢を食ったババアの声がした。そちらを見ると、ほんとに齢の食ったババアだった。ババアが路上にむしろをひき、いかにもゴミ捨て場から拾ってきたような漫画雑誌を売っていたのだ。ほとんど売れてしまい、新年号とでかでかと書かれた一冊が残るだけだった。

    「いくら」

     ぼくはちょっと足を止めた。

    「一冊百円」

    「一冊百円って、一冊しか売ってないじゃないか。それに、それ、コンビニ売りの漫画雑誌だろ。新年号なんて……って、新年号の発売日は明日じゃなかったっけか」

    「明日じゃないよ。来年」

    「来年って……来年?」

     ぼくは時計を見た。一月四日だ。

    「冗談だろ?」

     雑誌をまじまじと見た。たしかに、来年の日付が書かれている。それによく見ると、表紙のイラストはぼくの知らない作品だ。ミリタリーものの新連載があるらしい。

    「なんだよこれ。エイプリルフールは三か月後だぞ」

    「エイプリルフールじゃないわっ! お前、『明日の新聞』という短編小説は知らんのか」

     明日の新聞か。知っていた。ある男が、日付が翌日の夕刊を拾う。面白くニュースを読んでいると、翌日の競馬の結果が書かれていることに気づく。これさえあれば、大穴でもなんでも取ることができる。喜んだ男は、翌日、その新聞を持って競馬場へ行き、荒稼ぎをする。帰りの電車の中で、にやにやしながらその夕刊を読んでいた男は、埋め草の記事の中に、帰りの電車の中での自分の急死の記事を目にする。

    「……電車の中で、男は、電車を止めてくれっ、といいながら心臓マヒで死ぬんだろう」

    「そうそう。投げ出された明日の新聞は、誰に気づかれることもなくゴミ箱に捨てられてしまう、というオチ」

    「さよなら。ぼくは、電車の中で心臓マヒで死ぬのはあまり好きじゃない」

     くびすを返そうとしたぼくを、ババアはげらげら笑った。

    「それは明日の夕刊の話じゃないか。これは、来年の雑誌。来年の少年漫画週刊誌。どうして、お前さんの訃報なんかが載ってるんじゃ。それとも、お前さん、この雑誌の編集部に投稿でもしとるんか」

    「してないな」

     ぼくは再び振り向くと、財布から百円玉を取り出した。

    「その雑誌ちょうだい」

    「毎度ありい」

     ぼくはにおいに顔をしかめながら、雑誌を受け取った。ババアは手早くこそこそとむしろをまとめると、雑踏に紛れて消えてしまった。

     でもこれ、どうしよう。やっぱり、下宿へ帰ってから読むか。ぼくもこそこそと下宿に戻った。

     しかし、来年のはやりは、ミリタリーものなのか。編集部はどういう編集方針なんだ。

     ページをぺらぺらめくったぼくは、すぐに、編集部の編集方針を理解した。最後まで読んだぼくは、あのババアがウソをついていたことも知った。

     来年の日本は、クーデターによる極右政権のもと、諸外国との戦争状態に突入していたのだ。マンガというマンガは、すべて愛国心を高揚させることを目的とした、ワンパターンな戦争実録ものに変わっていたのだ。

     そして……最後のページには、ぼくの名前もあった。

     『先週の英霊』

     ぼくは雑誌を投げ出して叫んだ。

    「日本を止めてくれっ!」

     その声に答えるかのように、飛んでいくジェット戦闘機の爆音が、ぼくの下宿をぐらぐらと揺らしていった。
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    ~ Comment ~

    Re: 山西 左紀さん

    今の日本、どこかにこういう怖さがありますよね。火薬庫にわざわざ自分から火種を持ってくるような連中ばかりで。

    そして火薬庫の管理人自体が、つきかけた火の消し方をわかっていない、という……。

    そういうのを平和ボケというのではないかと思います。

    ポールさん
    とてもいいです。そしてやはり怖いです。
    いい味が出てます。
    いいなぁ。
    うん。

    Re: ヒロハルさん

    それよりも紙の配給が止まったのが痛かったそうですね。

    漫画の自粛により「のらくろ」の連載も止まってしまったとか。

    新聞も4コマのサイズが小さくなってしまったり。

    「もう書くほうも読むほうも、お義理みたいなものだった」とどこかで故・横山隆一先生が書いていたはずだったけど資料どこへいったっけ(汗)

    戦争絶対反対。

    まさかのまさかのオチでしたね。

    戦時中はこういう漫画ばかりだったそうで。
    もう勘弁して欲しいですね。

    Re: ペレさん

    むう……元ネタがわからんかったであります。なんだっけ。

    ババアに金を返してもらいに行くと更なる地獄へ連れて行かれるのがこの手の作品のご愛嬌というやつで……。

    Re: limeさん

    >なんか、印刷物には、いいことで名を載せたいです

    いちばん最近印刷物に名を載せたのが、漫画雑誌の読者コーナーでした……。なんて雑誌かは伏せとく。

    短編ホラー作品ですね!
    100円払って、未来に戦争があってるのが分かり、
    自身の死が分かり・・・・・
    いやはや、現実に考えると、何で教えるんだー!!とか
    叫びたくなりますね。
    分かったからといって、対策がとれそうもないですしね。
    未来を知るのは、やっぱ、あんまり嬉しいもんじゃないというのがよく分かる話でした。
    最後の一言を「ばあちゃん、やってくれたな!金返せ!!」に変えたらパロディになっちゃうな!とひとり突っ込みで、楽しんでしまいました(おい)
    って突っ込んだら

    この一冊で、なんとか危機を回避できれば・・・。
    しかし「ぼく」には無理っぽいですね。

    なんか、印刷物には、いいことで名を載せたいです^^;

    Re: レオ・ライオネルさん

    まあ、未来を知ってもどうすることもできませんしね。それが未来を知るということなのですけど(^^)

    百円で知る自分の未来・・・
    やっぱ未来は知りたくない
    明日が分からないから、楽しく生きれるんだと再確認出来たかもしれません(^^;
    • #9718 レオ・ライオネル 
    • URL 
    • 2013.01/04 23:10 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 小説と軽小説の人さん

    落ち込んじゃダメ!(^^;)

    かのセザンヌも陳腐化した題材だった「りんご」などの静物画でルーブルを震撼させたんだから、いくらでも歴史に名を刻む方法は……あるよなあ。たぶん。(^^;)

    時代に左右されますものね。

    まさにウチの話……。(笑)
    いいんです。目新しさなんて無いのですから。……新しいネタ考えよっと
    • #9714 小説と軽小説の人 
    • URL 
    • 2013.01/04 18:32 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 小説と軽小説の人さん

    最近の戦争書いてもなあ、ゲリラ戦だらけで、レジスタンスものみたいになるしかないからなあ……。

    AK47は悪魔の発明品だったなあ……。

    現在の日本と東アジア圏の関係を鑑みても、「現実離れした無い話」とは言い切れませんね。
    プロパガンダはこうしてコンテンツに蔓延していく……。

    はてさて、来年はミリタリー物ですか。
    そうなれば、僕の時代がっ!
    ……来たら良いな(笑)
    • #9712 小説と軽小説の人 
    • URL 
    • 2013.01/04 15:12 
    •  ▲EntryTop 
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