幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片114「車は走っていった」

     ←断片113「続由美子は呆然としていた」 →断片115「車は別な高速に乗ったようだった」
     車は走っていった。それだけはわかった。問題は、どこを走っているかなのだが、そればかりはわからなかった。運転席と後部座席の間には、不透明な仕切りが置かれ、窓には遮光フィルムが貼ってあったからだ。

    「いったい、あの研究室は、何のために存在したんですか?」

     続由美子は、抵抗の意思などなくしていた。抵抗してどうなるというのだ。

    「君のためだ」

     隣席の中島准教授は当たり前のことであるかのようにそう語った。

    「あたしのため……それって、あたしがあの研究室を受け取れる、っていうわけじゃないですよね」

     半ば泣き笑いのようになっての続由美子の言葉にも、中島准教授はその表情を崩さなかった。

    「当たり前だ」

    「じゃあ」

     続由美子は金切り声で叫んだ。

    「じゃあ、なぜなんですか! あたしは実験材料かなにかなんですか?」

    「なにかではない」

     中島准教授の言葉にぶれはなかった。

    「きみは、実験材料そのものだ。いや、日本にとっての資産そのものなのだ」

    「あたしが、資産?」

    「きみも読んだはずだ。きみと、きみが将来発病するであろう癌細胞。それには医学的のみならず、経済的に軍事的に……純粋に戦略的な価値がある」

    「じゃ……じゃああたしは、強制的に癌にさせられるために防衛省に連れて行かれるんですか!」

     中島准教授は舌打ちをした。それは、准教授が講義でできの悪い解答を聞かされたときにするものだということを続由美子は知っていた。

    「きみが極めて重要な戦略資源だということは動かせない事実だが、それならば、これほどまわりくどいことはしない。われわれは、待っているのだよ」

    「なにをですか!」

    「物理帝国」

     中島准教授の答えに、続由美子は一瞬、言葉を詰まらせた。

    「なんですか、それ?」

    「きみはまじめにあの文書を読んでいなかったのか」

     中島准教授は再び舌打ちをした。

    「ほんとうに、なにか食事を入れてきみの脳細胞をしっかりさせなければいけないらしいな。いいかね、あの文書で、皇子とやらはなんといっていた。旧人による物理帝国を滅ぼして、新人類である彼らが新たに幻想帝国を興したといっていたな」

     続由美子はようやく飲み込めた。

    「そういうことだ」

     顔色を読んだのか、中島准教授は続けた。

    「われわれは、旧人類として、新人類への世代交代をいかなる手段を用いても阻止せねばならない。そして、これから先の歴史を変える。それがわれわれの使命であり義務だ。そうだろう?」

    「つまり」

     続由美子はぽそりとつぶやいた。

    「あたしはもはや人間としては扱われないということなんですね」

     中島准教授はイエスともノーともいわなかった。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    申し上げにくいですが、これからさらに腹の立つ展開が待っています。

    これ書いたとき、疲れていたのかなあ。そんなことまで思います。うむむ。

    にゃんと!
    由美子にはそんなことが、
    しかしフザケている、あの研究所はその為と云うのがムカツクわい。
    友達も皆、グルだったわけ。
    こりゃ人間不信になりそう。
    今、一瞬生ける屍が・・・
    まさかねぇ〜

    Re: 山西 左紀さん

    コメントがないのは、だから人気が……(^^;)

    この小説、当初の予定よりかなり展開を早くしています。

    一年かけるつもりだったけど半年くらいで決着がついてしまうかもしれません(^^;)

    いいのかこんな適当で(^^;)

    あれ?コメントが…無いですね。
    いよいよ現実世界(なのかな?)で動き始めましたね。
    徐々につながっていくことを期待してワクワク!!!
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