幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片115「車は別な高速に乗ったようだった」

     ←断片114「車は走っていった」 →断片116「食事は意外とまともだった」
     車は別な高速に乗ったようだった。窓が閉め切られているために外の様子はまったくわからないが、速度の微妙な変化からわかる。

    「どこへ向かっているのかくらい、教えてくれてもいいでしょう」

    「きみが気にする必要はない。どうせすぐにわかる」

     そういわれてしまってはなにもいえない。しばらく、無言の時間が続いた。

    「何か疑問はないのかね?」

     先にしびれを切らせたのは中島准教授のほうだった。

    「そんなわけがないでしょう。だけど、どこからどこまでが答えてもらえる範囲で、どこからどこまでが質問できる質問なのかがわからないだけです」

    「ふん」

     中島准教授は鼻を鳴らした。

    「ひとつあります」

     続由美子は思い切って尋ねた。

    「ディアはこのことに何かかかわりがあるんですか」

    「きみを捨てた外国人留学生か」

     哀れむような視線に、続由美子は質問したことを後悔した。

    「何年前の話だ。自分を捨てた男にまだ未練があるのか。安心したまえ、その男が誰であろうと、このプロジェクトには一切関わっていない」

    「ほんとうですか」

    「こんなことで嘘をついてなんになる」

     続由美子はもやもやとした思いだった。このような暗い世界へディアが関わってほしくないという思いと、どこか、自分に再びディアと関われるチャンスが来るのではないかというかすかな期待とが、心の中でぶつかっていたのだ。

    「あの男の存在自体が、われわれのきみについての追跡調査からは洩れている。その男を写した防犯カメラの映像は現存していないし、きみの言葉以外にその存在を支持するものはない。留学生に該当するような人間がいた記録もなければ、周囲に居住していた人間についても反応はネガティブだった。要するに、きみの言がもし正しかったとしても、それはきみが行きずりの外国人に足を開いて捨てられただけの話だ」

     もし正しくなかったとしても、については中島准教授は語らなかった。それが続由美子にとっては無性に悔しく、腹立たしいことだった。

    「教えてください。それじゃ、あたしの名前はどこから出てきたんですか」

    「きみの名前か」

     中島准教授は視線をそらせた。

    「どうせすぐにわかることだ」

    「だったら今話してくれてもいいじゃないですか」

    「話したところで信じない」

    「どうしてですか!」

     中島准教授はポケットからガムを取り出し、口に入れた。

     二、三度くちゃくちゃと噛み、しばらく休み、また二、三度くちゃくちゃと噛む。それを見ているだけで続由美子はいらいらとしてきた。

    「どうなんですか!」

    「きみが信じないだろうことはよくわかるんだ。なぜなら、事態は、きみが見たそれと同じだからだ。きみの名前は、SELがそのまま吐き出してきたんだからな。続由美子という、きみのその名前を」

     たしかに、それは信じられる話ではなかった。信じてたまるか、という思いのほうが強かった。続由美子は、下唇を噛むと座席に身を沈めた。
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    これからもっと哀れになりま……いえいえなんでもありません。

    ディアはどうしようかなふふふ(イヤらしい笑い(^^))

    少しずつ、多世界との絡みが見えてきたようで・・・それでもまだ先が見えてこないじれったさ。
    今分かるのは続由美子、哀れ><ということですね。

    そして、ディアが、実は白馬に乗った王子様だったらいいなあ・・・と。
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