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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:13 一撃の理由

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    一撃の理由



     美術館の展示室では、探偵のエドさんと、雇い主の美術館館長、それに高名な芸術家のエイミス氏が展示品を見ていました。隅では、警備員の男が、あくびをこらえていました。

    「この翡翠の小像は、わが美術館でも一、二を争う展示品ですよ」

    「こんな小さいのに? 値段は?」

    「値段なんかつけられません! 存在するだけで奇跡なんですから」

    「保険はかけてあるんでしょう?」

     エドさんが尋ねると、館長は首を縦に振りました。

    「もちろんです。なんといっても……」

     その額は、とんでもないものでした。

    「で、こちらに展示してある陶磁器の彫刻が、エイミス先生が精魂を傾けられた傑作『白亜の城』です。こちらも値段なんかつけられませんが、売れることが決定してます」

    「買い手は、わしが作っているときから、ぜひとも欲しいといってくれてな。芸術家冥利に尽きるというものだ」

    『そんなにすごいものかなあ?』

     エドさんには芸術がよくわかりません。

    「エドさんと先生をお呼びしたのは、展示品をぶち壊すという手紙が来まして……」

     三人は、ぞろぞろと展示室を出ました。

     そのときです。展示室から、がちゃん、という音が聞こえてきました。エドさんたちははっとして、再び展示室へ駆け込みました。

     そこで暴れていたのは、なんと、警備員自身でした。「白亜の城」に、隠し持っていたハンマーを振り下ろしていたのです。

     警備員はなおも執拗に「白亜の城」にハンマーを叩きつけていましたが、エドさんと館長、それにエイミス氏が、三人で背後から警備員をはがい絞めにすると、ようやくおとなしくなりました。

     ほかに被害はないものか、エドさんたちは辺りを見回しました。

     被害はありました。テーブルの上には、割れたガラスケースのほかに、粉々に砕かれた翡翠の破片があったのです。

     館長は、真っ青になり、足をぶるぶる震わせました。エイミス氏は、頭から湯気でも出るくらいに真っ赤になりました。

    「わしの……わしの『白亜の城』が! 早く、早くこの忌々しい部屋から運び出せ! 大至急修理しなくてはならん。ああ、明日には買い手に渡さねばならぬというのに!」

     エイミス氏の怒りは激しく、それを見た館長は、震える声で警備員にいいました。

    「おま……おま……お前、いったいなんということをしてくれたんだ!」

    「こんなもの、全部壊れちまえばいいんだ」

     警備員は、吐き捨てるようにいいました。

    「警察でも、なんでも呼べよ。自分のしたことについて後ろ暗いところはないぜ」

     館長は、烈火のごとく怒りました。

    「けしからん。警察を呼べ。この男を、刑務所に放り込んでやらねば、気がすまん!」

     エドさんは、警備員と館長の間に割って入ると、両手を広げました。

    「館長、待ってください。この人を、警察に突き出すのは、やめてもらえないでしょうか。少なくとも、小像については弁償してもらえそうですから」

    「なんだと……わしの『白亜の城』を壊したことはどうなるんだ!」

     エイミス氏は、口をぱくぱくさせました。

    「それはそうです。ですが、館長、調べてみてください。小像は、あの中です!」

     エドさんは壊れた「白亜の城」を指さしました。エイミス氏の顔が、さっと青ざめ、がっくりと肩が落ちました。

    「なぜ……わかった?」

    「あなたは、この作品をすぐさま部屋の外へ運び出そうとした。これは陶磁器で、修理なんてそう簡単にできないのに、なぜ? そう考えれば、簡単なことでした。小像を壊れた美術品に隠せば、あとは修理の名のもとに運び出せばいい。誰にも怪しまれずにね」

    「どうしてもあの翡翠の小像が欲しいと、わしの依頼主がいったのだ。それをかなえるために、わしは価値のない彫刻を作った。共犯者が必要だったが、ちょうどおあつらえ向きの、貧乏な男がいたという寸法だ」

    「この人は、あらかじめ壊れた翡翠のかけらを持ってこの部屋に入り、ハンマーを持って大暴れしたというわけですね」

    「その通りです。警察に捕まった後は、エイミスさんが保釈の手続きをしてくれた後で報酬をくれるはずでした。保険会社しか損しないしいいだろうと思って、つい誘いに……」

    「さて……どうしますか、館長?」

     次の日、エドさんは朝食を食べながら新聞を読んでいました。美術館の事件は、記事になっていませんでした。エドさんは、そっとほほ笑みました。

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    ~ Comment ~

    NoTitle

    なるほど! ズバッと解決、カッコいい!
    キレの良い推理もの、いいですね。

    Re: fateさん

    というか、一日に5枚も書くともうへろへろだという(^^;)

    でも、5枚ならなんとかなるとわかったので、精神的に楽です。

    はみ出た部分も強引にシェイプアップして5枚に収めますから、「あっわたしよけいなことを書いていた」と気づくこともしばしばです。

    これで制限がなかったら50話も書けなかったと思います(^^;)

    だからfateさんの大長編にはすごく憧れます。わたしの最高は200回ちょいだもんなあ……。

    原稿用紙5枚の制約

    ダラダラ進めるより、確かにそういう制約があった方がいろいろ磨かれますね。

    毎日更新とか、そういう何かを課した方が技術はあがるし、いろんな作に触れることも感性が磨かれるんだろうけど…

    良いと思われることを最近何もやっていない…

    Re: YUKAさん

    とにかくどんな事件でも「四百字詰め五枚」で決着をつけなくてはならないから、ハードボイルド風私立探偵なのに推理をずばずば(笑)

    怪我の功名でエドさんどんどん名探偵に(笑)

    世の中なにが幸いするかわからない(笑)。

    こんばんは、YUKAです^^

    エドさん、ここのところカッコいいです(笑)
    名推理ですね!^^

    ――私も、ポール・ブリッツさんの作品を読むと
    狂ったように嵌まった「星新一」先生を思い出します^^

    Re: 有村司さん

    星新一先生のような、ショートショートを1001篇書いてそのすべてがことごとく傑作、という、日本にSF界を作るために天が遣わされた天才と比べられては、わたし畏れ多くてひっくり返って馬鹿になって座り(以下略)

    わたしも五分アニメになったらな、と妄想したことはあります(^^;) 声は当然西村知道氏(^^) 齢がばれる~(笑)

    前にも言いましたが…

    エドさんアニメ化(ヨーロッパの上品なアニメ作家さんとかで)しないかなあ…もしくは、ラジオドラマ化とか…声は小山真司さんがいいなあ(バリバリ妄想趣味全回)

    今回もエドさんカッコ良かったです!
    怒らないで欲しいのですが、ポールブリッツさまのエドさんシリーズを拝読していると、あの星新一先生を思い浮かべてしまうのです。
    (文章が)簡潔で洒脱でカッコよくて…(羨望の眼差し)

    Re: ぴゆうさん

    童話のはずが作者の趣味でバリバリの謎解きものに(笑)。

    先例はありまくりだろうけど、これだけの分量でまとめたことに満足しています(^^)

    ホープダイヤ伝説は、後から作られたものらしいですね。そもそもホープダイヤ自体が、もっと美しい宝石を盗んでカットしなおしたものだという説もあるし。

    まあ全ては謎ですが。

    NoTitle

    エドさんの推理が冴えている。

    翡翠ってきれいだものなぁ。
    宝石って人を惑わすよねぇ。
    ホープダイヤみたいなのもあるし。
    怖いよね。
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