幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片213「詩人は古の歌を聞いていた」

     ←証拠 →断片214「ぼくがどんな誤解を」
     詩人は古の歌を聞いていた。砂河鹿の声は、詩の最も重要な人物のひとり、続由美子の受難を歌っているところだった。

    「……略語は、わかるな? SVEL……SVELですって! そう。われわれはその言語を、スヴェル、と呼んでいるのだ……」

    「もういい」

     詩人は手を挙げて、砂河鹿の歌を制した。

     あとは誰でも知っていることだ。生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの誕生につながる話など。理解しているかどうかは別として。

    「お前は、誰から詩を教わったのだ?」

     焚火草が燃える火に照らされたこの醜い女は、詩人の問いの意味がよくわからなかったようだった。

    「もう一度聞く……お前は、誰から詩を」

     詩人はいらだたしげに問いただそうとしたが、詩を歌っていない時の砂河鹿には、いくらの理性もないことがわかるだけだった。炎に照らされても、そのどろりとした瞳には知性の光が輝くことはなかったのである。

    「もういい」

     詩人はそういうと、焚火草の炎で頃良い具合にあぶられた姫砂虫の串焼きを砂河鹿に渡した。

    「食べろ。食べ終えたらぼくたちは行かなければならない。次の村までは、まだ遠い」

     そう告げて、詩人はもう一本の姫砂虫の串を取り上げ、その歯ごたえのある肉をかじった。砂を食べて生きているにしては、その肉は栄養があった。砂だらけの内臓を取り出さなければならないのは骨だったが。ひさしぶりのごちそうに、詩人は鼻歌を歌った。

    「隠者さま」

     詩以外で、砂河鹿が意味ある言葉を発したのはこれが初めてだった。詩人は串焼きから口を話すと、厳しい声でいった。

    「隠者さま? それが、お前に詩を教えた人間なのか? どこだ、いったいそいつは、どこにいるんだ?」

     砂河鹿は、砂虫の肉に夢中になってかぶりついていた。

    「食ってないで答えろ!」

     詩人は腕を振り上げようとしたが、とっさのところで思いとどまった。

    「悪かった。ぼくはお前をあの男のように扱うところだった。これでは、どうしてお前を鞭と鎖から解き放ったのかわかりやしない」

     詩人は砂河鹿と同様、肉を食らうことに戻った。

     それでも。詩人は考え続けていた。なんとか、この醜い歌姫からもっと意味のある言葉を聞きださなければならない。殴って叩いて聞き出せるほど、この相手には知性がないことはわかっていた。

     なんとかしなくては。

     いい考えは湧かなかった。肉を食べ終えた砂河鹿のぶんを合わせ、二本の金串をベルトに刺した詩人は、星を頼りに夜の荒れ地を歩き始めた。

     道は遠い。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    読み返してみて、

    「作者もよくわかっていない」

    ことに気づいて愕然としました(^^;)

    細かいことは考えずに大ざっぱなイメージだけで書くとこうなるという見本みたいな話ですね(汗)

    おおーーー
    やっと最初から読み始めてここに辿り着いた。
    でも、よくわかっていない。
    スヴェル・ベームの形はわかったけれど
    何故生きているのかが謎。
    ここまで読んでも全体像がボヤッとしている。
    難しいぞーーーー

    Re: ぴゆうさん

    いちおう、第一ページはここであります。

    http://crfragment.blog81.fc2.com/blog-entry-1505.html

    ここはもう話がややこしくなってしまった後なので、たぶんここから読んでも話はわからないと思います。

    しかしそれにしても、こんなわけのわからない話、足かけ四カ月も連載しているのかわたし。こうして見てみるとクラクラするなあ。しかも読み返すと論理矛盾がいくつも……わああ気にしない気にしない!(ダメ人間)

    このページが一番目なのでしょうか?
    休んでいたのでわかりません。
    いいのかな?

    デューン砂の惑星を思い浮かべました。
    あんな感じかしら。
    行きたくないとこだわ。
    砂の女も不気味な作品だけど
    これもそうなのかな?

    Re: レルバルさん

    正確には、砂を食べているのではなくて、砂に付着した有機物や微生物を砂ごと食べて吸収して成長し、砂と糞を排泄する生物ですね。大量にいれば惑星を緑化してテラフォーミングするのに絶大な効果を発揮する生物ですが、この惑星の場合は、「生態系のバランスが釣り合ってしまった」ために、住民や捕食生物の蛋白源になってしまっているだけだというのが皮肉であります。

    これを見てもわかるとおり、要するに砂漠適応のミ(以下削除)

    砂を食べている……。
    ふむ。
    これはきっとあれですね。
    あんまり動かない奴なんですね。

    鉱石ってほらエネルギーないですし……。

    Re: 矢端想さん

    まだ牧場で養殖するための効果的なシステムが築かれてはいないようですねミ(以下削除)

    今の技術段階で蛋白質を養殖したければ、魚や羊や鶏あたりのほうがコスト的には手っ取り早いみたいです。

    でもこの世界は砂漠世界なもので、食えるものはなんでも食わないと死んでしまいかねないのであります。

    しかたないですよね食うのも。たとえミ(以下削除)

    ああ、そちらでしたか。なるほどテラフォーミングね。
    いろんな目的で養殖はされている様ですが、ハンバーガーなどの畜肉の代用品として食用の大がかりな牧場があるというあながちバカにできない都市伝説もありますな、ミ(以下削除)

    まあ美味くて栄養があって害がないのなら食すに拒む理由は僕にはありませんが。

    Re: 矢端想さん

    砂を食って生きているんですよ。正確には砂に紛れている微生物とかを食っているテラフォーミング用動物のなれの果てなわけですが。

    そりゃもう、その姿はミ(以下削除)

    ヒメスナムシという種類がいるということはオオスナムシという種類もあって、それはでっかいミ(以下削除)

    蛋白源としても優秀ですからねミ(以下削除)

    お食事中の方には申し訳ありません。やはりまずかったかなあミ(以下削除)

    砂を食べている「姫砂虫」がどんなものなのか気になりました。節足動物?爬虫類?ゴカイみたいなもん?
    「歯ごたえのある肉」というところに鶏の砂肝をイメージしたのは私だけではないはずだ!
    砂河鹿の「河鹿」はカジカガエルですよね。なかなかのネーミングです。
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