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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片216「これも隠者の教えたことなのか」

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     これも隠者の教えたことなのか。隠者は統制文字を知っているのか。統制文字についてのまとまった資料は、今は王宮にしか存在しないはずなのに。

    「まさか……隠者は『本読み』なのか?」

     詩人は砂河鹿の身体に手をかけ、揺さぶろうとした。

     いや。違う。

     詩人は、自分が根本的に間違っていたことを悟った。

    「とにかくここを通り過ぎなくては」

     このままでは自分たちの身が危うかった。

    「いいか、お前はそのままの顔つきでいろ。ここでは何も起こらなかった。いいな?」

     砂河鹿は、詩人と出会ってから、はじめてまともな返事をした。

    「わかった」

     やがて、空になった天幕へ、役人と何人もの従者が頭を下げてやってきた。

    「統制文字は、書かれるやいなや霊気となって天上へ昇り、風に乗って書かれたことを王宮へ正確に伝えると聞いております。できますれば、『本読み』さまに王宮へのとりなしのお言葉をお書きいただければ……」

    「役人」

     詩人は、王宮づとめのころに覚えた、人を人とも思わぬような声でもって答えた。

    「ぼくがそのような小細工に乗ると思うか。おおかた、とりなしの言葉を書いた瞬間に、ここにいる男どもが剣を抜いて一斉に襲い掛かり、ぼくと連れを斬り殺す、という算段だろう。まったく、小賢しい」

    「われらは決してさような……」

    「嘘はいい。そこの男、身体が震えているぞ。お前に命じる。ぼくと連れについてこい」

     詩人はひとりの男を指差して立たせた。詩人がこれまでの旅の中で身につけた、物事を見る目は確かだった。

     ざくっ、と音がした。男の腰から剣が落ち、地面に当たった音だった。

    「やはりな」

     詩人は砂河鹿の腕をつかむと、役人には目もくれず歩き出した。

    「『本読み』さま、いずこへ……?」

     詩人は振り返り、冷たい視線で這いつくばる役人を見下ろした。

    「そのうちわかる。そのうち王宮から兵がやってきたときに。下劣なお前には、ぼくの温情など期待しても無駄なことがわかるだけかもしれないがな」

     詩人はそのまま天幕を出て、いくばくかの食料と水を勝手にもっていくと、もうひとつの門へと向かった。

    「開かせろ」

     詩人の命令に答えて男がひと声叫ぶと、見張りの兵があわてて直立した。

    「ついて来い」

     詩人は何事もないかのように村の門をくぐり、そして青ざめた顔でついてきた男に告げた。

    「兵がやってくるまでにはまだ時間がある。やってきたら最後、この村の住人は一族もろとも皆殺しの目にあうだろう。だが、ぼくもそのような光景は見たくはない。もしあの役人の首をもって遥か王宮まで赴き、あのものの罪をすべて事細かに白状すれば、国王陛下もお前たちを許してくれるかもしれん。くれないかもしれん。すべては時間との勝負だ。わかったな」

     男は顔をより青くすると、すぐに村へと引き返していった。

     詩人は汗をぬぐった。

     後は役人や男たちが迷信を信じ、このはったりがきいてくれることを祈るだけだ!
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