幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片217「少年はなんとしてでも」

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     少年はなんとしてでもその人にもう一度会いたかった。それが無理でも、なんとしてでもその美しい顔をもう一度だけ見たかった。

    「お前も『本読み』になるくらい頭がよかったら、世の中には無理なことがある、ということを学ぶべきじゃないのかねえ」

     衛兵、いや、正確には『近衛兵』のひとりであるその男は、少年に呆れているようだった。

     なにせ、毎日のようにやってくるのだ。王宮の、一部の高貴なものしか立ち入りを許されないその庭園へ。

    「王妃様も罪なおかただねえ。前途有為なガキ……じゃなかった、学生を、わずか一度出会っただけでここまで骨抜きにしちまうんだから」

    「じゃあ、おじさんは、なんでこんなところで番をしているの。近衛兵だったら、王様をお守りするのがお仕事でしょう」

     少年の言葉に、衛兵は苦笑いした。

    「まあ、そういわれればそうだが……」

    「おじさんも、ほんとうは、王妃様にお会いしたいんじゃないの?」

    「このガキ、いうねえ。だが、当たっていないわけじゃない。あのかたがたまたまここを通りかかったときなんか、おっ、おれってツイてる、と思うもんなあ」

    「ほら、やっぱり」

    「だがな」

     衛兵はまじめな声になった。

    「おれは、お前と違って、身分というものを心得ている。身分というか、人間の格だな。あの人が王族であって、おれたちのような人間とは『違う』ということをよく知っているんだ」

    「でも、ぼく、このごろ思うんだけど、人間に違いなんかあるの?」

     衛兵は真剣な声を崩さなかった。

    「でかい声でそんなことをいうもんじゃない。そんなことがおれ以外の耳に入ったら、いくらお前が前途有為なガキでも、王様にいくら気に入られていたとしても、お前はこの町の外に放り出されて日干しにされてしまうぞ」

     少年は頭は悪くなかった。衛兵の言葉が真実であるということを、すぐに悟った。

    「二度といわないよ」

    「そうだ、それでいい」

     衛兵は少年の肩に手を置いた。

    「お前も『本読み』ならば、そういったことにも詳しいんじゃないのか? 人間に身分があり、遥か昔の幻想帝国のころから、身分の差は誰にも乗り越えることができなかった、ということについては」

     少年は首をかしげた。

    「そこなんだけれど、歴史の本をよく読んでみると、ちょっと違うみたいなんだよ。幻想帝国が最も栄えていたときは、生ける皇宮スヴェル・ヴェルームと、そこに仕える皇子たちのほかは、職業の差はあったけれど、おおまかなところでは全員が帝国の臣民として平等で、誰もが努力しだいでいくらでもその地位を……」

    「だからそんなことは二度というなっていっただろ」

     衛兵がげんこつを振り回したときだった。

    「面白いお話ね。いいから続けてくれない?」

     衛兵の顔が真っ青になった。

    「王女様!」

     こうして少年は、ふたたび地面に頭を押しつけられることになったのだった。
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