幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片019「ルジェは、まさに」

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    (欠落)

     ルジェは、まさに退廃した世界にいた。

     そそり立つ整然とした建築物の群れ、それはたしかに、雑然とした幻想帝国のそれとは違った秩序を示していたが、残念ながら、そこに「維持」という概念はないようだった。都市という巨大な肉体を流れる血液であるはずの住民たち、すなわち旧人たちは、どんよりとした目をして、ピンク色の肉片をそこらから拾ってかじること以外に何もする気はないことがわかるだけだった。

    「これが、末期の物理帝国?」

     ルジェはちらりと建物の中を見やった。自分と同じ人類はいないようだった。ルジェはあちらこちらを探した。だが、どこにも、自分たちの同族はいなかった。

     旧人のひとりの肩を、ルジェは揺さぶろうとした。しかし、手は旧人の肩にかかったものの、揺さぶってもその住民はとろんとした目を変えようとはしなかった。

     自分が結晶楼閣の情報のただ中にいる、ということをルジェはその時になってようやく思いだした。

    「トリスメギストス師! これが、物理帝国の情報ですか!」

     ルジェは真っ青な空に向かって叫んだ。

     すぐに、意地悪な老人の声が降ってきた。

    『……まあ、そういうことになるな。物理帝国の情報を調べるには、自ら物理帝国の過去の再現のなかに飛び込むのが一番であろうからな』

     ルジェは頭を抱えた。

    「こんなものの中にいたら、何年かかろうとも調査は終わりませんよ」

    『ふふふ、でも、よく見てみるんじゃな。幻想帝国に暮らしているつもりで、その場所をよく見てみるがいい』

     トリスメギストス師にそういわれ、ルジェは、その建物を、いつもの調子で、『見た』。

     情報が、洪水のように押し出されてきた。

     そうか。この建物は、『市場』だったところなのか。

     この人は、物理帝国の官吏だった人だったのか。

     そして、ここで彼らがしがんでいるもの、それは……。

    「トリスメギストス師! これは! この肉は!」

     ルジェは、その事実に直面し、自分の足が震えてくるのを感じた。

    『その通り。国母、続由美子の癌細胞から培養された、脂肪混みの筋肉組織、味付けおよび微量栄養素混入済みの半生物じゃよ』

    「半生物! どういうことなんですか?」

    『見ていればわかる』

     ルジェは、いわれるがままに、男の手の中の肉片を見つめた。男は何事もなかったかのように肉片をかじった。

     ルジェは目を疑った。

     肉片は、ちょうど男がかじったと同量だけ、増えた。

    「空気から合成されているのですか?」

    『もしそうならば、幻想帝国のほうでも掟で禁じたりはしない。よく見てみることじゃ。どうして、あの男は素手で肉をつかんでいるのか』

     ルジェは、もう一度よく見た。

     慄然とした。

     肉片は、男の手から生えていたのだ。男は、自分自身の肉体を食べていたのだ!

     とろんとした目で肉をしがみ続ける姿に、ルジェは胸が悪くなった。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    「狂暴な口」ですね(^_^)

    わたしが書いたときのイメージでは、中国の伝説にある、食べれば食べたぶんだけ成長して、決して減らない肉である「視肉」が頭にありました。それを生体細胞に組み込んで、腹が減ったら自分の身体を食べるようにしたら絶対人間は堕落するな、と。

    地獄絵図ですが、ある意味ユートピアと呼べるかも知れないのが怖いですね(^_^;)

    まあ小説は逃げないので、ゆるりとご覧くださいね~!

    もうなんか、続き物として読んでいくには無理な気がしてきた。
    週一に読みに来ているという事もあるんだろうが・・・
    短編として楽しむしかにゃい。
    ぷぷ

    自分を食する男に小松左京の短編を思い出しましたよ。
    骸骨になっても食べ続けた物語をね。
    気色悪かったわ〜
    しかし、考えると食べ物がなくなっても自分を食べようとは考えないよね。
    人を食べたという話は古今東西色々聞くけど、
    自身に手を出すという行為は精神が崩壊でもしない限りは無理な気がするわ。

    あーー由美子の最後が思いやられる。
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