幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片023「おれも物理帝国のこいつらも」

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     おれも物理帝国のこいつらも変わりないということなのか。ルジェはなんとなく腹立たしいものを感じた。物理帝国のこの怠惰な蛋白質の塊と変わりないというのか。

    「師よ」

    『なんだ』

    「これが、師がおっしゃろうとしたことですか。わたくしには、信じられません……いや、信じたくありません」

     ふっ、と笑われたような感じがした。

    『わしやあの皇子がお前さんに見せようとしたものは、もっとお前さんにとって衝撃的なものじゃろうな。この建物の中に、その天才的な生化学者はいる。会ってみたいとは思わないかね』

     ルジェは唇を強く噛んだ。意を決して建物の廊下を歩き出す。

    『そうすれば、なぜきみが、「文字による言葉」なしではものを考えることができなくなってしまったのかを教えてやることもできよう』

     ルジェは勘にまかせて廊下を歩いた。まるで自分の意思ではないような気までしてきた。

    『そこは、もとはエスカレーターになっていた。つまり、自分で勝手に上昇し下降する階段じゃ。今は、維持するものがいないというか、この建物内のエネルギーのすべて、エネルギーではわからないかな。物事を動かしていく原動力そのものみたいなものじゃが、それはすべてひとつのことに集中されており、階段を動かすまでの余分なものはないのじゃよ』

     ルジェは階段に足をかけた。動くと聞いてためらったが、階段の段はルジェの体重を支えてびくともしなかった。

    『金属と石で作られた物理帝国の建造物の堅牢さはきみが考えるよりも優れたものだ。安心して体重をかけるがいい。それに、ここはわが結晶楼閣の作り出した、いわば幻影とも呼べるものであることも忘れるでないぞ』

     ルジェは一段一段、階段を昇っていった。どこまで昇ればいいのか、それも勘が教えてくれるようだった。

     導かれるように四階まで上ると、あたりを見回した。

     廊下の照明は明るかったが、ひとつの部屋が、さらに一段と明るかった。

     あの部屋か。

     ルジェはそちらへと歩いていった。

     自分を含む、幻想帝国の民がどうやって生まれたのか、それを目にするときが来るのだ。……しかし、これは信じていいのか? 実は自分は、トリスメギストス師にたばかられているのではないだろうか? これの全てがひとつの意地の悪い冗談だということはないのだろうか?

    『その疑問はもっともじゃ。しかし、考えてみたまえ。今のきみは、いったいどうやって考えている?』

     言葉を文字に起こして理解し話し考えていた。ルジェには認めたくないことがあまりに多すぎて、頭が焼けつきそうだった。これならば、あの論理印象カクテルの醒めた酔いに身を任せたほうがよかったのではないか、そうとまで思った。

     それでも、足はその明るい部屋の戸口へと向かっていた。

     ルジェは扉の前で立ち止まり、上に書かれている文字を読んだ。幻想帝国の住民としての印象把握能力と、『文字』を理解する能力とにより、内容はすぐにわかった。

     第三実験室。

     ルジェは深呼吸すると、扉を開けた。
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