幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片122「まるで講義でもするかのようだった」

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     まるで講義でもするかのようだった。続由美子は、自分ができの悪い学生であるかのごとき気分を味わった。

    「プラトンは激怒して否定するだろうが、『歴史』はひとつのイデアとしてみなすことができる」

    「『完璧な歴史』なんて存在するとは思えません!」

    「たしかに、『完璧な歴史』なるものは存在しない。存在するとしたら、狂信的ななんとか主義者の頭の中だけだ。だが、こうは考えられないかね? われわれは、物事を考えるときに、『過去にあった世界の歴史』はただひとつしかない、無意識のうちにそう考えているのではないのかね?」

    「え……」

     続由美子は言葉に詰まった。中島准教授は話を続けた。

    「もしそう考えていない人間がいるとすれば、そういう人間こそほんものの『いかれてしまったやつ』だ。話を戻そう。もし、ただひとつしかない『過去にあった世界の歴史』像があるとしたら、それをひとつのイデアとみなして悪いわけがない。そうだろう? われわれはひとつの、理想的な『過去にあった世界の歴史』の像を思い描き、そこから自分勝手に様々な歴史解釈を引っ張り出してくる。そうした歴史解釈は、歪んでいたり、捻じ曲がっていたりするが、それでも、唯一の『過去の歴史』からの投影であることは否定できない。違うかね?」

    「歴史は想起できません」

    「たしかにそうだ。だが、それは、歴史に責任があるのだろうか?」

     続由美子は頭を抱えた。

    「なにをいいたいのかわかりません」

    「なに、簡単なことだ。それは、歴史に責任があるのではなくて、われわれ、受け手としての人類に責任があるのではないかということだよ」

    「どういうことですか?」

    「簡単なことだといったろう。シンプルに考えるんだ。われわれが歴史を想起できないのは、例えば、遺跡からの新発見をひとつ見ても眉唾物としか思えないことばかりなのはなぜか、それはすなわち、われわれの頭脳が歴史を想起するのに十分な能力とキャパシティを持っておらず、『唯一の真正な歴史』というイデアだけを持っていながら、その真贋を見極めることができない、ということなのだ」

    「そんなこと……」

    「ないことはあるまい。きみは小学生向けの数学、いや、算数学習用の漫画本を読んだことがあるかね? 何十年も経ったいまだに覚えているが、そこでは、このような問題が出されていた。四つの惑星があり、その中から『四角形』をした惑星を選ぶ、というものだった。ひとつの星は、見るからにわかる三角形をしていた。ひとつの星は、長方形がわずかに押しつぶされた八角形をしていた。もうひとつの星は、角が丸い正方形をしていた。もうひとつの星が正解で、かなりいびつな形をしていたが、数学でいう四角形には間違いなかった。わたしがどれを選んだかわかるかね?」

     続由美子は返答に困った。中島准教授はにやりとした。

    「そうだよ。これまで、四角形といえば、正方形や長方形を出されることに慣れきっていたわたしは、迷わず、角が丸い正方形の星を選んで、バツをもらったのだ。それはかなりのカルチャーショックだった。何度も本を読み直したものだ。かなり長い間、その解説に納得が行かなかったものだ。そのときのわたしの頭脳は、『四角形』というイデアは持っていながら、それがなにを意味するかについての十分な能力やキャパシティを持っておらず、その真贋を見極めることができなかったのだ。子供だったからな。そのぶんでいえば、われわれ現代の人類は、皆、子供のようなものなのだ」
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    この物語の「現在」はどこにあるかですが、それを書くとネタバレになってしまいます。

    あえていうなら、今、ここ、なのですが……うーむ。

    この会話自体も過去の幻影だとしたら
    空恐ろしいな。
    一分前の過去、二分前の過去と際限なくあり
    一分後の未来も何もかも際限なくある。
    そんな事を考えだしたら
    頭がおかしくなっていく。

    しかし、この物語の現在は何処にあるのだ。
    最初の断片にあるのかな。
    難しい・・・
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