幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片123「続由美子は叫んだ」

     ←断片122「まるで講義でもするかのようだった」 →自炊日記・その13(2013年1月)
     続由美子は叫んだ。

    「だったら!」

     自分でもびっくりするくらいの大声が出た。

    「子供だっていうんだったら、さっさとその座を、大人に譲ればいいじゃありませんか! 十分な能力とキャパシティを持つ大人に!」

     中島准教授は鼻で笑った。

    「続くん、わたしはヒューマニストなんだ。文字通りの、『人間中心主義者』なんだ。そのひとりとして、わたしは銀河の覇権をあんなカッコウの雛みたいなやつらに奪われることは断じて許せんのだ」

     続由美子は目の前の男が根本的なところで、どこか間違っていることを悟っていた。しかし、どこがどう間違っているのかまではよくわかってはいなかった。

     今、ついに続由美子はその間違いの原因がどこにあるのかを知った。

    「ヒューマニストですって。よくいうわ」

    「なんと思われてもかまわんよ」

     中島准教授はポケットからなにかのキャンディーのようなものを取り出し、口中に放り込んだ。

    「やるかね? ミントだが」

    「いりません」

     ミントのタブレットをがりりと噛み、中島准教授は陶然として語った。

    「われわれ子供には保護者が必要だ。幸いにも、保護者は今やわれわれの手の中にある。手の中といういいかたはおかしいが、まだ保護者が成長途上にある以上そう呼ぶしかあるまい」

    「あのコンピュータのことですね」

    「そうだ。われわれはなんとしてでも、あれを成長させるすべを見出さねばならない。システム的にではなく、物量的にだ」

    「そう簡単にいくものなんですか」

    「容易なことではないだろうな。きみがいなければ」

    「あたし?」

     続由美子は自分を指差した。

    「あたしがいることで、どうしてあのコンピュータを成長させる役に立つんです?」

     中島准教授は黙ってモニタを指差した。

    「どういうことですか? まさか、あそこに、いつかコンピュータを成長させる方法が出てくるとでも?」

    「ほかにどう考えればいいというのかね?」

     中島准教授は憐れむように続由美子を見た。

    「循環論法のようであるが、いつかは、人間以上の能力を持った、ある種の神となるこのコンピュータは、イデアとしての歴史を思い出すだろう。想起だ。その過程において、われわれがやるべきこともわかってくる。われわれがすることは、その想起の中で、想起に逆らって行動し、われわれの輝かしい未来へと舵を切り替えることにある」

    「准教授、論理矛盾です。想起によってひとつの真正な未来が顕れるのならば、どうやって人間がそれに干渉しようというのですか」

     中島准教授は失望したようだった。

    「先ほどの議論を忘れたのかね、きみ。われわれは、未来の歴史は矛盾のない公理系における『正しいとも正しくないともいえない文』だと。時間の流れとは、そうした文が新たに増設された公理によりなにが正しくてなにが正しくないかが決定される一連の大いなる運動のことなのだ」
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    夢だったんですよ、異様な議論をして異様な結論に持っていくSFを書くのが。

    好みに合わないかたにはまったく好みに合わないジャンルなので、ちょっとどきどきしてたんですが、まあ、その……。

    東海道は日本晴れだなあ(意味不明(^_^;))

    う~~~ん
    わかんないようなわかったような
    でもこれだけはハッキリした。
    私のような単純な奴にはこのような複雑な物語は書けん!
    これだけはものすごーーーくわかった。
    ニャハハハ

    Re: ぴゆうさん

    中島准教授のいっているのは、哲学的には「運命論」と呼ばれるものを、プラトンの「想起説」とゲーデルの「不完全性定理」を使ってアレンジしたものです。

    「運命論」というのはなにかというと、「現実に起こったもののみが可能なものであって、それ以外のものは不可能である」という考え方です。煮物を例に取りますと、われわれの前には、煮物を作るのに無限の選択肢があるように見えます。すべてが可能に見えます。しかし、「大根の煮物」にしてしまった時点で、ほかに可能性があったことは否定されます。「大根の煮物」を作るという未来だけが可能であったもので、ほかの未来は不可能であったということになります。これと同様のことは、これまで流れてきたすべての時間でいうことができます。ある時間で「わたしが台所で大根の煮物を作っている」「わたしが夕食に自分で作った大根の煮物を食べる」「食べたらマズかったので残す」という経過があったら、その時間に「わたしがインゲンの煮物を作る」とか、「わたしが夕食に大根の煮物を食べていない」とか、「大根の煮物を食べたところうまい」とかいう可能性は、すべて「不可能」ということになります。これをどんどん突き詰めるところまで突き詰めれば、われわれの世界を時間的に眺めると、「世界には可能な未来がひとつあるだけで、ほかのすべては不可能であり、存在しない」という結論に行き着きます。「運命論」はアリストテレスの時代から延々と議論されている問題ではありますが、まだ明確な結論は出ていません。

    運命がひとつだけだったら中島准教授は何も行動しないために小説にならないので、ここでプラトンの「想起説」とゲーデルの「不完全性定理」の出番となります。プラトンの「想起説」というのは、人間は「イデア」という一種の理想形みたいなものを生まれつき心の中で理解しており、新たに得る知識は、そのイデアを思い出すという行為である、というものです。そのいい例が数学です。何の教育もない奴隷の子供でも、いちから順を追って説明してやれば、難解な数学の証明問題でも理解可能だ、ということをプラトンは著書に書いています。では、歴史や未来についてそれがいえるかというと、プラトンは、違う、と答えるでしょうね。そこでわたしが持ち出したのが、ゲーデルの不完全性定理です。いろいろとややこしいので詳述はしませんが、その結論のひとつは、「数学のような、わずかの基礎的なことから定理の証明と、その定理を使ってのさらなる他の定理の証明、というサイクルを繰り返して構築した、間違いというものが存在しないひとつの体系において、その体系内にあっても、真であるとも偽であるとも証明できない問題が存在する」というものです(先に指摘があった無矛盾な公理系でうんぬんというのはこういうことですが、こう長々しく書くと小説のテンポや、登場人物を学者らしく見せるのに影響が……(汗))。つまり、歴史というものをある種のイデア、唯一の真理ということにしてしまい、時間が流れる、ということはその真理が徐々にわれわれの目の前に明らかになっていく過程、としてしまうわけです。それでは現代から未来に対して何の干渉もできないので、われわれにとって、未来(未来から来た情報ですね、正確には)とは「真理ではあるが、真であるとも偽であるとも証明できない」文だ、としてしまったわけであります。こうすれば、未来から来た情報を基本的に真理としながら、おいしいところだけを「真」と証明して、それ以外のところは「偽」であるように証明、いや、強引にそうできるよう歴史を操作しよう、という中島准教授と日本政府のセコい作戦を説明づけることができます。

    「運命論」「不完全性定理」「想起説」自体はいずれも有名な学説ですが、それを一緒くたにした中島准教授の考えはSFを書く上での架空理論というかハッタリであり、こんなことを哲学や数学の教室でしゃべるとよくてバカにされ、悪いと教授から鉄拳を食らうので注意されたほうがいいと思います。(^^)

    決まった未来があるという、
    そんな大前提があっての中島准教授の行動。
    未来とは何ぞや?

    例えば料理。
    鶏肉の煮物を作るには大根をいれるかもしれない、
    じゃがいもを入れるかもしれない。
    はたまた、インゲンかも
    そして、調味料は砂糖を入れて、醤油を入れて
    若しくは酢を入れるかもしれない。
    どれも出来上がりは確かに鳥の煮物だが
    夫々に違う。
    それが当たり前なんだよね。

    中島准教授が思い描く未来になると確定する根拠は何かな?
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