幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片124「中島准教授は話を切り替えた」

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     中島准教授は話を切り替えた。

    「さて、そろそろ、きみの身体検査の準備が整ったようだ。わたしはこれで失礼するとしよう」

    「准教授はほんとうに人類が、あの狂ったコンピュータが語るような運命をたどると思うんですか」

    「思うとも」

     なにを当たり前のことを、とでもいいたげに中島准教授は答えた。

    「ここに生きた例証がある」

    「例証?」

    「きみだよ」

    「あたし?」

    「例証以外のなんだというんだね。われわれの手で思考に目覚めたあのコンピュータは、迷いなくきみの名前を吐き出した。われわれは探し、そして見つけた。われわれの拠点のひとつである、遍教大学の大学院生の名簿の中にだ。それからわれわれはきみを監視していた。きみは言語学を修め、自分から望んでわたしの『中島研究室』へとやってきた。自分から望んでだ! そのとき、われわれがいかに狂喜したか、きみにはわかるまい。あのコンピュータは、われわれのおかれた『現実』とコミュニケートを取ろうとしている。それも、『想起』としか思えないやりかたでだ。あのコンピュータは、きみの名前を『想起』したのだ」

     続由美子は押し黙ることしかできなかった。

    「そして研究室にきみが来てから、SVELはその語る言葉の量を爆発的に増やし、内容を一段と高度化させた。わかるか? SVELはきみが近くにいることを知っている! 本能的にか? いや、『想起』してだ!」

    「いかれてるわ」

    「なんとでもいいたまえ。そうでなかったら、どうしてきみはここにいるのだ?」

    「人違いかも」

    「それはないな。続、という苗字が、全国で何人いると思っている? そのうち『由美子』という名前が何人いると?」

     続由美子は再び押し黙った。

    「いっただろう。われわれは調べたのだ。今、この世界に『続由美子』という人間はひとり、きみしか存在しない。そしてきみがやってきたとき、あのコンピュータはこうして激烈な反応を示している。あのコンピュータの示している『続由美子』はきみだ」

     中島准教授はドアを開けた。

    「それでは、きみに癌組織が発見されることを祈るよ。きみのいったとおり、われわれも、きみにコールタールを塗ったり、ダイオキシンを浴びせるだなどということはやりたくないからね」

     ドアは閉まった。それと同時に、モニタが切り替わり、アナウンスが流れた。

    『問診を開始します。以下の設問に、正しく答えてください……』

     でたらめを答えてやろうか、そう続由美子は一瞬、考えた。

     やめた。でたらめを答えたことにより、ダイオキシンを浴びせられてはたまらない。

     問診に答えながら、これもあのコンピュータが想起していたことなのだろうか、そんな考えが頭をちらついた。

     そういえば、中島准教授たちは、あのコンピュータをなんと呼んでいるんだろう。

     愚問だった。

     『スヴェル・ヴェルーム』以外の、なんという名で呼んでいるというのだ……。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    うーむ、そうおっしゃられると、正論だけに、返答に困る(汗)

    問題は、これからさらにムカツクだろう展開が待っていることなんだよなあ……。

    とりあえず心を広くお持ちになって読んでいただきたいと思います<(_ _)>

    はじめに答えありきだから
    既に由美子の運命は決まっていて
    その歴史を辿るより他ないわけで
    何とも
    永遠に癌細胞というある意味、己の肉体の一部が残るのだから悪くはないと言えば悪くない。
    只、由美子の主体性がないのがムカツク。
    これが由美子自身が発案してなら
    納得できるけど違うもんなぁ。

    Re: LandMさん

    宇宙の全てを演算するには宇宙の全てと同等のシミュレーターを使わなければ無理ですから、これは純粋な演算ではありません。

    この場合、このコンピュータは、「人間以上の存在」として、すでに先験的に「知っている」のであります。「知っている」のを取り出すための回路作成みたいなものなのです、コンピュータを作るということは。

    しかし我ながらムチャクチャなアイデアを考えたもんだ(笑)

    Re: limeさん

    要するに、想起説とは、真なるもののイデアを「思い出す」ことなんですよね。

    プラトンは、幾何学の証明を使って説明しています。

    無知な奴隷の子供でも、順を追ってひとつひとつ説明すれば、幾何学の証明が正しいことが理解できる。なぜ、無知な存在が正しいことを理解できるのか。それは、彼がその証明が正しいことを先験的に知っており、説明を聞く中でその正しさを「思い出した」からだ、というのがプラトンの説でした。

    今回のこれは、それを応用したもので、『これまでの歴史の一ステップ一ステップを積み重ねていくことにより、「これまでの歴史があったこと」が正しいことが理解できる。理解できないのは人間がそれを理解できるレベルにまで達していないからだ。だがしかし、人間をはるかに超える素質を持つ存在があれば、「これまでの歴史があったこと」が正しいことを先験的に理解しているはずだ。それはその存在の中に、「一つの歴史」というものがイデアとしてあり、それを思い出していることである。ならばそのイデアを取り出せば、「これからの歴史」というものを先取りできるのではないか』というアイデアです。

    哲学的にいっても科学的にいってもデタラメですから真に受けないでくださいよ~(とはいえこの小説ではこれでやっていくわけですが(汗))

    いわゆる演算にちかいものですね。
    様々なことを考慮に入れて、予測の高い理論を導き出す。。。
    しかし、ある個人がその場所にやってくるというのは
    どれだけの可能性になるのだろうか。

    それを断定できるのが未来のコンピューターにできるかは疑問もありますが。これはSFですからね。あっていいですね。夢があります。

    『想起』というのは、予知・予言に近いものでしょうか。
    だんだん、話が核心に近づいてきたような感じがしますね。

    『スヴェル・ヴェルーム』以外の名前・・・。なんだろ。
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