名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    機械性難聴殺人事件

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     世界一周航海中の豪華客船の無線室で、名探偵・深見剛助は武者震いをしていた。嵐の孤島から、無線連絡が入ったのだ。なんでも、その島で奇怪な連続殺人事件が発生したらしい。犯人は今も捕まっておらず、別荘にいる人々は皆、疑心暗鬼の中、恐怖に怯えているという。犯人の手によるものか電話も破壊され、外界との連絡は、誰もががらくたと見なしていたおんぼろのアマチュア無線機一台。その電波を、たまたまこの船の無線が拾ったというわけなのだ。

    「皆さん、ご安心ください。このぼく、深見剛助が、およばずながらお力になりましょう」

    「ああ! (ガーッ!)探偵の(ピーッ!)助さん! お願いします! (ピーッ!)の命は、すべ(ガーッ!)ましょう!」

     こんな名探偵魂をくすぐる状況があるだろうか。自分の純粋な推理だけで、犯人を指摘できるというのだ。しかもこちらは豪華客船、犯人がいる心配もない。最高の見せ場が待っている。ミステリ史上に残る名作に自分が。なんと晴れがましいのだ。

    「それでは、詳しい現場の状況からお話しください。次に、尋問が入ります。ひとりひとり、順番に答えてください。お名前を聞いていませんでしたね。お名前は?」

    「はい、(ピーッ!)ハ(ガーッ!)といいます」

     ことばのひとつひとつに挟まるノイズの前に、深見剛助はこの事件が困難なものとなる前兆を感じた。



     …………



    「わかりました」

     雑音だらけで困難を極める作業だったが、深見剛助はすべての尋問を終えた。それだけで十分だった。深見剛助は、持てる頭脳をフル回転させて事件を組み立て直し、そしてひとつの結論に達した。

    「ぼくの目には、事件は明白も明白でした」

     いささかの面映ゆさとともに、深見剛助は犯人の指摘にかかった。

    「犯人は……あなたです、ハドリーさん!」

    「探偵! お(ガーッ!)ない!(ピーッ!)」

    「あなたじゃないです、アトリーさん! 犯人は、ハドリーさんです!」

    「わたしだ(ピーッ!)うんで(ガーッ!)じゃありませんわ!」

    「だからドリーさんじゃなくて、ハ、ド」

    「ぼくじゃありません!」

    「わかっているよ、ハーディくん。無線の様子がひどいな。つまり、この中でバットを握れたのは」

    「バット? (ガーッ!)トって?」

    「え? だから凶器の」

    「バットじゃないよ! テニス(ガーッ!)トだよ!」

    「ガット? 犯人はテニスラケットのガットで絞め殺したのか!」

    「だから(ガーッ!)じゃな(ピーッ!)いか!」

     深見剛助は再び考え始めた。もうこのミステリも終わりが近いのだ。作者に下巻を書く予定がない以上、これまでのデータで、論理的に犯人を指摘できるはずなのだ。

     そして答えは出た。パズルはまったく別の様相を見せていた。

    「わかった。みなさん、安心してください。犯人はすでに……デッドです。死んでいるのです」

     無線機の向こうから、雑音に紛れて、深いため息が聞こえた。

    「(ピーッ!)です。わたしです。このわたし、テッド・トムソンがやったんです!(ガーッ!)」

    「テッド、それ(ガーッ!)なの! わたし、あなたを……」

    「すまないキャシー。わたしはきみをあの悪党から(ピーッ!)たんだ」

    「あんたじゃ(ガーッ!)のう」

    「つまりあの手がかりは(ガーッ!)だったんですね」

    「ドアに鍵をかけたトリックは(ピーッ!)を(ガーッ!)のか!」

    「(ピーッ!)んて悲しい事件なんだ!」

     無線機の向こうでの盛り上がりをよそに、深見剛助は愕然としていた。なんだこれは。こんなことが許されていいのか。主役である名探偵はこの自分、深見剛助なのに。見せ場は。推理の意味は。新趣向は。

     船長が、笑いをかみ殺しながら、深見剛助の肩をぽんと叩いた。

    「ま、あんたはよくやったよ、探偵。事件のほうで、勝手に解決してくれたんだから、もうけものじゃないか」

     深見剛助は納得のいかない表情のまま、この本が日本の書店に並ばないことを祈るのだった。



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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    シリーズ最高傑作が本屋に並ばないことを祈る深見剛助くん(笑)

    気の毒な人であるなあ(笑)

    おおっ、これは深見剛助シリーズ最高傑作かも知れない!

    Re: 小説と軽小説の人さん

    深見剛助くんは先鋭的な事件を解く神のごとき名探偵のはずなんですがねえ。どうしてこうなった(笑)

    というかネタがなくなると出てくるな深見剛助くん。そういう意味ではこのブログでいちばん働いているかもしれん(^_^;)

    初めの方『ガーッ』『ピーッ』でもう堪えきれなかった。
    グダグダの面白さ。堪能しました。
    • #9887 小説と軽小説の人 
    • URL 
    • 2013.02/06 14:57 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 山西 左紀さん

    深見剛助くんはある意味桐野くんよりも悲惨なキャラクターかもしれん(笑)。

    次やってないのはなんだっけ。もうネタが(^_^;)

    PCでこのお話を読んでいて、
    思わずニヤーーっとしてしまい、
    まわりの家族に怪訝な顔をされてしまいました。
    それくらい面白かったです。
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