幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片219「考えてみれば簡単なことだった」

     ←改築は遺産とともに →断片220「詩人は苛立って叫んだ」
     考えてみれば簡単なことだった。詩人は、どうして自分がそれにもっと早く気づかなかったのかと歯噛みした。

    「お前は、どこから、やってきたのか?」

     詩人は、詩の節回しに乗せて、きちんと韻を踏んで質問した。

     砂河鹿も、詩の節回しに乗せて、きちんと韻を踏んで答えた。

    「きみ知るや、砂の果てなる荒野が原、隠者の住まう村」

     詩の節回しと韻が重要だったのだ。それしか、この哀れな女は言葉を理解し伝達する方法を知らないのだ。

     それにしても面倒くさい。それが仕事とはいえ、毎日の会話で韻を踏んで話すというのは骨が折れる。

    「砂の果て、はたしてどこへ、この四方で?」

    「そは東、隠れ住みし、隠者の庵」

     東の隠れ里らしい。とにかく、目的の方向ははっきりした。東へ向かうのだ。

     詩人はその持てる技巧をこらして、砂河鹿からその身の上話を聞きだしていった。

     ものごころついたときには隠者と暮らしていたこと。

     両親の顔はわからないこと。

     隠者より使命を託されたこと。それは、この大陸を放浪しろ、そしてときがきたら戻って来い、というものだったこと。

     詩と言葉は隠者が教えてくれたこと。

     それ以外のことはなにも知らないこと。

     要するになにもわからないということじゃないか、詩人は心の中でそうぼやきながら、東へと歩を進めた。

     それに、なんとか、意味の通ずる言葉を話す話し相手もできたのだ。こいつが、もっと利口な頭を持っていたらな、というのが、いつしか詩人の贅沢な悩みになっていた。

     砂河鹿の話が正しければ、東への道はそうとう長いようだった。

     町々で、村々で、詩人は歌い、砂河鹿も歌い、いくばくかの路銀を稼ぎながら、ふたりは旅を続けた。旅先では詩人たちは歓迎された。ひとところに足を止めないということがわかっているものに対しては、土地の人間も、つかの間だけは歓待してくれるものだ。

     その無関心が、今の詩人には何よりもありがたかった。

    「隠者の隠れ里、もはや近いと、答えるや人?」

     詩人の問いに、砂河鹿は答えた。

    「人の答えるや、もはや間近、関を越えた村」

     詩人はほっとした。ほっとするのと同時に、疑問も感じた。

     国王陛下が、こんなところに、関を設けたのか? そんな話は、聞いたことがないが。なにかの間違いなのではないか?

     詩人は、それが間違いでも何でもなかったことを知ることになる。食料と水を求めて立ち寄った村で、詩人と砂河鹿を認めた村役人は、女を含め、身包み一式渡せ、さもないと通過はまかりならぬと告げたのだから。

    「あなたは、この女を置いていけといわれるのか? 正気なのか?」

     詩人の愕然とした言葉に、村役人は答えた。

    「無論のこと……」

     詩人は、この窮地が切り抜けられるだけの機転が与えられることを、神に祈った。
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【改築は遺産とともに】へ  【断片220「詩人は苛立って叫んだ」】へ

    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    ここらへんはもうちょっといろいろと手順を踏んでじわじわやるはずだったのですが、猛烈な駆け足になってしまいました。

    入念なプロットを組んでいるわけでないのが丸わかりですね(^^;)

    どこか一神教がかっているのは、キリスト教よりも大学で叩きこまれた西洋哲学の知識が大きいでしょうね。病気中退さえしなければ、院へ進みたかったんですけどね……世の中うまく行かんとほほほ。

    この辺はキリスト教系統の考えと行動に基づいていますね。以前の隠者は「そして砂漠に住むもの」と同じように。正確には女世捨て人の発想に近いものを感じますね。3世紀の頃は世捨て人自体職業として認識されていましたが。この世界観では・・・普通に死ぬなあ。

    私ごとながら、
    私のブログが11万ヒット突破しました!!
    いつも来訪ありがとうございます!!
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【改築は遺産とともに】へ
    • 【断片220「詩人は苛立って叫んだ」】へ