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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片220「詩人は苛立って叫んだ」

     ←断片219「考えてみれば簡単なことだった」 →断片221「幻想帝国は理想郷ではなかった」
     詩人は苛立って叫んだ。

    「理解できないかもしれません。だがしかし、理解はできなくても、その教えを聞き、自らの力にすることはできると思います! そうでなければ、神が啓示を与えるわけはありません!」

     隠者は微笑んだ。

    「それだよ。きみはもうすでに、答えに到達している」

     詩人は面食らった。

    「どういうことですか?」

    「きみは、完全言語という言葉をきいたことがあるかね?」

    「いえ」

    「完全言語とは、それだけで世界のすべてを、記述しうる世界のすべてを記述することのできる言語のことだ」

     詩人は瞬きした。当惑したのだ。

    「ぼくは詩人です。そういう話は苦手です。それに、『本読み』として学んだ中にも、そうした文言は出てきませんでした」

     隠者はわずかに顔をしかめた。

    「きみ、きみは自分がこれまでに読んだ本に書かれていることが、人類の知の営為のすべてであったと考えているのかね?」

    「え? ……いいえ」

    「そうだろう。そのはずだ。かつて幻想帝国の華やかなりしころは、いや、あの薄汚れた物理帝国ですらその全盛期には、このような砂と荒地だらけの惑星など、あっという間に肥沃な大地にしていたことだろう。それこそ、小指の先を動かすような按配でだ。だが、今の人間に、そんなことができようはずもない。今の衰え果てた人間には、自分が立っているこの土壌がいったいなんなのかを考えることもできず、一日一日を、ただ砂漠蛙や姫砂虫を漁って暮らしている有様だ」

     隠者はわずかに言葉を切った。

    「きみのような人間としゃべっているのは楽しい。だから、きみが気づいて当然のことに気がつかないのが苛立たしくてたまらないのだ。神にとって発言するとはなんだ。神にとって言語を使うとはいったいどういうことを意味する。それを考えたとき、出てくる言葉はひとつだ」

     詩人は困惑しきっていた。そんな詩人に隠者は問うた。

    「もう一度聞く。神の言語とは、いったいなにかね?」

     詩人はしばし考え、ちかっとなにかが頭の中でひらめくのを感じた。完全言語。神の言語。それは。そんなまさか。そんな簡単なことだったのか。

    「ぼくには信じられません! そんなこと!」

    「いや、きみは信じているはずだ。信じているから、そこまで顔を蒼くできるのだ。いってみたまえ。いってしまうのがいちばんいい。『神の言語』とは?」

     詩人は、言葉を飲み込み、そして一気に吐き出した。

    「神の言語とは、この世界のすべてを記述できる言語のことです。神の言語は完全言語です。つまり、『神の言語』とは、ぼくたちが毎日、当たり前のように使っている、ぼくたちの当たり前の言語のことです! なぜなら、ぼくたちの言語もまた、完全言語だからです!」

    「そういうことだ」

     隠者はうなずいた。

    「正確には、われわれの、言語能力そのものを指すのだが、大筋では合っている。われわれは気づかずに、『神の言語』で会話し、『神の言語』で思考しているのだよ」
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    議論の果てに最終的には読者をとんでもないところまで連れて行くつもりですが、残り枚数を冷静に計算すると、あと二カ月くらいで終わってしまう公算が高く。一年かけて一千枚のつもりだったのに、四百枚行かないで終わってしまう公算が高く。

    竜頭蛇尾もいいところ。まあそれがわたしの限界なのかもしれませんが。

    前にも書いたとおり、この小説のテーマは「言語にとって神とはなにか」であります。ほんとにそんなことを言語で語ってしまっていいのか? やっぱりわたしの脳神経は切れてしまっているのか? 小説は無事に終わるのか? うわあああああ。

    わあ、ますます難解になってきたなあ。さすが哲学科出身。

    物語の行きつく先はどこなのだろう。ますますこれは天才による未曾有の小説なのではないかという予感が・・・。
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