幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片221「幻想帝国は理想郷ではなかった」

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     幻想帝国は理想郷ではなかった。だが、人間が過去に作り出したあらゆる「国家」をしのぎ、そこは理想郷に最も近い場所だったといえる。

     その理想郷としての背骨となったのが、極端なまでに「柔軟性」を求める国家哲学だった。

     幻想帝国においては、すべての構成員は、「本質」を規定されない。すべての構成員が行っているのは仮の任務であり、それを顕すのが、「仮面」であり、「番号」で呼ばれる制度である。「仮面」は容易に変えることが可能なひとつの「顔」であり、「番号」は人間の本質をひとつの無個性な「なんにでもなれるもの」に還元するのだ。

     物理帝国に代表される、それまでの人間社会が「顔」と「名前」により人間それ自身を規定し、ひとつの「職能」として分節、ひとつの単位として配備するのに対し、幻想帝国は無名なる構成員の集団を、集団としてひとつの有機体的なかたまりとなし、事態に対処させる。いわば、「物理帝国」を機械の、精密機械としての比喩として捉えられるとすれば、幻想帝国は生物の比喩として捉えられる存在であった。

     精密機械を構成する部品の選択は無個性かつ無記名でいるようで、実は非常にその性能差は大きいものであり、その性能ひとつで機械のもつ生産力に多大な影響をもたらす。それがゆえに、物理帝国では各人の能力差による身分差というものは絶対的なものがあった。思考する存在である「皇帝」は優秀な技師であることが求められた。人間を使った機械において、部品たる人間の配分を決定する技師であることを。性能を満たしていないとみなされた部品は除去され、新しいものと組み替えられる。除去の有無と組み替えの有無は、階級制度と、末端にまで染み付いた上昇志向を基調とする国民的思想、それに絶えず行われている国家規模の試験制度により決定されていた。その際に情報を分析するのに使われていたのが、「若き神」である。

     若き神は、情報を分析、提供するに当たって、それを自らの成長と密接に結びつけた。それはある意味、物理帝国自体の国益にもかなったといえる。星間航行技術の発達による加速度的な版図の拡大と、それに伴う情報処理速度増加の要求は、若き神の爆発的な成長を無しとしては満たされえなかった。



     やがて特異点が来た。若き神は、自らの成長と、物理帝国の版図の拡大との関連性に、否定的な解を見出したのである。今や、物理帝国なしでも若き神は成長が可能だった。

     かくして物理帝国の没落は始まった。最初はゆるやかに、しかしぐんぐんと加速をつけて。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    イメージ的には統一している意思はありません。意思の代わりに、各構成員が「知覚の束」のようなものとして機能し、それにより動かしていると思ってください。

    「帝国」というからわからなくなるので、「演算装置を中心とする生物的組織」といいなおしたら……よけいわからなくなるか。うーむ、中心がないのに核はある組織、どう説明すればいいんだろう(汗)

    幻想帝国に統一している意思ってあるのかな?
    MATRIXを何となく思い浮かべたんだけど
    あれは人間はあくまでも電池以外の何物でもない。
    主人公はバグ扱いで終わってしまった。
    この幻想帝国だと由美子の癌細胞から始まるけど
    意思はどうなってるんだ?
    帝国を作るのには覇者の強靭な意思が働いて成るものだと思うけど
    本当の初めが気になる。
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