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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片223「王女様は少年にとって」

     ←断片222「追っ手は来ないようだった」 →断片224「詩人の修行というものも」
     王女様は少年にとって、この王宮ではじめて見る同い年くらいの……そう、「知的な」階級に属する娘だった。少なくとも、王宮の雑用をこなす無学そうな娘たちとは一線を画していた。

     だいいち、こんな具合に話しかけられてきたのは初めてだった。

    「面をあげていいわよ」

    「し、しかし、王女様、本読みとはいえこのものは身分が」

    「わたしが上げていいといっているのよ」

     少年の頭から衛兵の手がどけられ、少年は顔を上げた。

     あの人、王妃様にそっくりだ、それが再び見たときの印象だった。王妃様にそっくりだが、あの人のような落ち着いた表情と深みのある瞳はしていない。だが、好奇心というやつだろうか、それに満たされてあちらこちら動き回る瞳には、深み以上の親しみやすい魅力があった。

    「あなたが、神童?」

     王女様はしげしげと少年の顔を見た。

    「ぼくの顔になにかついていますか」

    「口がすぎるぞ、小僧!」

     王女様はころころと喉を鳴らして笑った。

    「目と鼻と口、それに耳がついて、毛が生えていなかったら、あなた、本読みになる前に、息もなにもできなくて死んでるわよ」

    「王女様もお言葉をおつつしみください」

     衛兵は真っ青な顔色をしていた。

    「だって、この子が、面白そうな話してるんだもん」

    「面白いって、これ、歴史の話だよ」

    「そうです。罪深い幻想帝国の歴史など、高貴な王族のかたの聞いてしかるべきところではございません」

     衛兵はぺこぺこと何度も頭を下げていた。

    「聞きたいものは聞きたいの!」

     少年は困ってしまった。この……きれいな、高貴な、それでいて駄々っ子のような王族に、いかにして話をすればいいのか。少年の頭の中に「かわいい」という単語が浮かんでいなかったのは幸いだった。もしそんなことをおくびにも出してしまったら、地下牢に閉じ込められても文句はいえないところだったのだ。

    「でも、話すと、長くなるし……」

    「そうですよ王女様。『本読み』の話ですよ。長々としていて、退屈な代物と決まっています。そんなものをわざわざ聞かなくても」

     王女様はちょっと考えていたが、やがて相好を崩した。

    「そうよ! 長い話なら、何度にもわけて聞けばいいんだわ」

     少年はあっけにとられた。衛兵も同様だったらしい。

    「どういうことですか、王女様?」

     衛兵がおそるおそる尋ねた。

    「簡単よ。月に一度、お父様が、ここで園遊会を開かれるのよ。そこであなた、詩人として昔の詩を吟じなさい」

    「ぼ……ぼくが?」

    「聞いた感じじゃ、あなた、いい喉をしているじゃない。決めた。あなた、これから、あたしの詩人よ。本読みよりも、ずっといいわ。すぐにお父様に相談してこようっと」

     王女様は来たときと同様、身を翻すと庭の奥へかけていった。少年は衛兵と顔を見合わせ、互いに青い顔をすることしかできなかった。ぼくが詩人だって?
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    「『幻想帝国の崩壊』の続由美子は『あたし』ですね」

    「院を出たとはいってもあいつはまだ小娘じゃからのうげふげふ」

    「『紅蓮の街』のエリカちゃんは『わたし』ですが」

    「あの娘は帝国貴族として生まれながらの大人じゃからなげふげふ」

    「それにしてはナミは『あたし』ですけど」

    「あいつは育ちが悪いからなげふげふ」

    「育ちの良さでは折り紙級の、『紅探偵事務所事件ファイル』の紅恵美所長は『あたし』ですが……」

    「あいつは世間に対し突っ張って生きておるから『あたし』になるのじゃよげふげふ」

    「それに対して、宇奈月財閥の令嬢である宇奈月範子と友人の下川文子は1対9くらいで『わたし』のほうが多いですが……」

    「えー、あの、その、げふげふ」

    「要するに一貫した決まりはないんですね」

    「……スビバセン。その場のノリです」

    しつこいようですが、確認しました。気になりだすととことん気になりまして(重箱気質)。
    「紅蓮の街」のエリカちゃんはさすがに「わたし」と言ってますね。対するナミは「あたし」で、なるほど、わかりやすいです。
    大学院生みたいな女性まで「あたし」って言ってるから・・・境界はどのへんなのかな。というより状況とかTPOなんでしょうね。失礼しました。

    Re: 矢端想さん

    別にそういうことではないのですが(^_^;)

    まだ幼くて、やんちゃな盛りの行動的な姫君という設定だと、どうしても「あたし」といわせたくなってしまう、という誘惑が。

    ある程度の知的成熟と一人称がだぶらないことですね。誰もかれもがわたしわたしいっているといったい誰がなにを発言しているのかわけがわからんことになるのを何度か経験しているので(^_^;)

    そうでしたか・・・。
    ポール作品での女性一人称はあくまで「あたし」なのですね・・・。
    (だからどうってことではありませんが)
    女性自身、「私は自分のこと『アタシ』なんて言ってない!」とこだわる人も結構いるようなので。落語の登場人物など男でも「アタシ」なんていうから、あくまで僕のこだわりでもあります。

    Re: 矢端想さん

    それはただのスペルミスです(^_^;)

    なにせ自転車操業で書いているものでして(^_^;)

    だうもすみません(^_^;)

    あっ、王女様ついに「わたし」って言いましたね!でもその後「あたし」になった・・・。ここは意識しての使い分けでしょうか。
    これはあくまでつまんない僕のこだわりですが、少なくとも知的階級の女子なら一人称は「わたし」と言ってほしい。個人的に「あたし(妾?)」っていう自称にはなんとなく抵抗があるのです。極めてプライベートなくだけたシチュエーションのときはいいですが。(ラスカル先生は別!)

    Re: limeさん

    はいコテコテのSFです。ファンタジー性など微塵もありません(そんなこと断言してしまっていいのか(^_^;))

    何度も繰り返しますが、この小説のテーマは「言語にとって神とはなにか」であります。SFですから無理やり解答を出します。納得するかはさておいて(^_^;)

    できるのかわたし?(^_^;)

    「屍鬼」は何度かトライしましたが、そのたびに分厚さにくじけています。読まなくちゃなあ。アニメやマンガになったバージョンはちと読む気が(汗)

    だから読むなら「異聞」のほうが読みやすいと思いますよ(^_^)

    とっつきやすいこの王女と少年から、物語の確信が見えてこないかなと探りを入れる・・・が、まだ、見えてこない。
    ファンタジーではなく、コテコテのSFなんだろうなあ・・・。

    小野さんの「屍鬼」と「東亰異聞」、いろんな作家さんが絶賛していたので気になって注文してみました。
    あの巧みな筆致で書かれたホラーって・・・。ぞぞ。
    ホラーな世界にはまってしまうかも・・・。
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