幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片026「ルジェは叡智がなにをもたらしたかを見た」

     ←断片025「ルジェはすべてを見た」 →断片027「どこか熱にでも浮かされたかのようだった」
    (欠落)



     ルジェは叡智がなにをもたらしたかを見た。それは胸が悪くなるようなものだった。

     トリスメギストス師はそのときの自分、誕生期の現生人類がなにをしていたかについて、すべてを話してはいなかった。

     部屋いっぱいの人間の部分品を、それぞれの標本が納められた瓶を打ち砕いては自分の生まれ出てきたピンク色の肉塊に突き刺していったかつてのトリスメギストス師は、やがて、それだけでは血肉は通うものの、ひとりで立って歩けるものではないことに気がついた。

     なにかの、決定的な「ひと押し」が足りないのだ。

     かつてのトリスメギストス師は、自分が突き刺した現生人類の頭についている、ぱくぱくと開く口のひとつひとつに、情報媒体を押し込んだ。

     それぞれの現生人類の瞳に、光が宿った。彼らは、声帯がまだできていないせいか、うめき声と表情の変化で、トリスメギストス師になにかを訴えた。

     それだけで十分だった。そのときのトリスメギストス師にも、ルジェにも。

     超高度な情報処理能力を持つ現生人類にとっては、それだけで十分に会話になるのだった。

    『ワレワレハ永遠ニコノママナノカ』

     首のひとつの問いに、かつてのトリスメギストス師は答えた。

    『ソノママニハサセテオケナイ。ナニカ手段ヲ考エル』

    『オ前ノ身体ト、記憶ニアル自律式システムノ形態カラ考エルト、ワレワレニハ胴体ヤ、ソレラヲツナグタメノ接着剤ガ必要ダ』

     かつてのトリスメギストス師は肯定的な印象を送った。

    『善処スル。ワタシノ語彙ハ正シイカ誤ッテイルカワカラナイガ、コウイウトキニ使ウ言葉ハ、「狩リ」でイイノカ?』

    『間違ッテハイナイト思ウ。狩ッテキテクレ。頼ム』

     かつてのトリスメギストス師は、戸棚から、武器に使えそうな刃物を選び出して、部屋の外……建物の外に出て行った。

     怠惰な獲物は、いくらでもそこらじゅうに転がっていた。

     「ひとりで動くことができる現生人類」を作るための、長いが平坦な実験が始まったのだ。

    『……そうだ。これが真実の歴史のひとこまじゃ。われわれ現生人類が長い苦難の末に旧人を駆逐するまでの、これが最初の一手になるのじゃよ』

     トリスメギストス師の声が遠くから聞こえてくる。

     ルジェは吐き気をこらえるので精一杯だった。

    『われわれ現生人類は、誰に祝福されることもなく生まれてきた。そういったはずじゃな。まさしくその通りなのじゃよ、ルジェくん』

     今見た光景を咀嚼していたルジェだったが、やがてはっとした。

    「しかし、わたしは殿下から下された使命を果たしておりません。『続由美子』という存在についての詳細な情報を持って帰れ、というご命令を」

    『残念じゃが、それが無理なことは、あのアヴェル・ヴァールもよく知っているじゃろうて。なにせ、われわれ錬金術師組合の持つ詳細な情報は、ここがもっとも古いのだからな。それ以前の情報は、もはや散逸し失われ、残っている可能性があるとしたら、あの生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの記憶の中くらいしかないのだから』

     ルジェは(欠落)
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    このシーンを書いたときには諸星大二郎先生が頭にあったかな。

    あの先生もすさまじい奇怪な生物が出てくる漫画をさんざん書いておられましたが、いまだにイメージは鮮烈であります。

    NoTitle

    なんか気持ち悪い。
    昔、気持ち悪い化け物を考えていた時
    こんなのが出来たっけ
    だるまのようにトルソーだけの男がいる。
    その前には沢山の四肢が置かれている。
    誰か通る度に
    「繋げていくれ」
    と頼む。
    親切な人が適当に選んで繋げる。
    彼は喜ぶが一瞬だ。
    何せ全てが違う人間のもの。
    何かを掴もうとしても生前の記憶がバラバラだから
    指のタイミングが夫々に違う。
    歩くのもそう。
    一歩も歩けない。
    仕方なく泣く泣く四肢を切断する。
    そのエンドレスみたいな
    なんか思い出した。

    Re: レルバルさん

    最初は文書の断片であることを強調するための演出として書いていたにもかかわらず、実際に続けていると「単なるうっとうしいもの」になってしまった感が。

    改稿するときには取ろう……。

    欠落多くないですか……!
    でも、それがまたポールさんらしいですぜ……!
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