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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片027「どこか熱にでも浮かされたかのようだった」

     ←断片026「ルジェは叡智がなにをもたらしたかを見た」 →断片028「困惑を隠しきれなかった」
     (欠落。皇子アヴェル・ヴァールは?)どこか熱にでも浮かされたかのようだった。結晶楼閣に備え付けられた何重もの侵入者防御網にひっかかり、皇子は情報的な統一体であることを失いかけていた。

    「トリスメギストス師! トリスメギストス師!」

     礼法のひとつも守らず、ただ結晶楼閣で叫び続けるその姿は、賓客というよりもまさに闖入者のそれだった。ルジェは皇子の身体を押さえると、この情報の大海の中で皇子が雑情報のかたまりになって四散しないように必死で構成作業を続けた。

    「殿下! どうか、お気を、お気をたしかに! トリスメギストス師なら、ここに、この結晶楼閣に偏在していらっしゃられます。どうか、お声を小さく!」

     ルジェの手の下で、ようやく皇子の顔が明瞭さを取り戻してきた。

    「ルジェか。なぜ止める。どうしてもトリスメギストス師に会わねばならんのだ」

    「殿下。そう慌てられなくとも、トリスメギストス師はお逃げになったりするようなかたではございません。それよりも、殿下が師になにをしてもらいたいのか、それをおっしゃられるほうが先ではないかと存じます」

     ルジェは刺青師だったときに彫り上げたもっとも困難な作品の何倍もの困難な情報操作を行い、なんとか皇子の身体を情報的に再構成することに成功した。

     しかし、皇子アヴェル・ヴァールはいまだ冷静さを取り戻してはいなかった。

    「ルジェ。皇子から離れたまえ」

     見かねたのか、トリスメギストス師の声がした。

     ルジェが慌てて皇子の身体から身を離すと、とたんにその場にすさまじい情報的衝撃が走った。

    「トリスメギストス師。これは?」

     自分の情報の末端にも走ったそのどこか痛みにも似た妙な感覚に、ルジェは一瞬困惑した。

    「純粋な形での零情報のかたまりじゃ。きみにも、いくらか余波がいったようじゃな。なに、零情報だから、自律的な情報の組み方さえしっかりしておれば、なんの傷も残らん。実世界で情報に酔っ払ったものの身体に、冷や水をぶちまけるようなものだと思えばよろしい。礼儀知らずに対するもてなしとしては、これがいちばん」

    「殿下!」

     ルジェは慌てて皇子アヴェル・ヴァールの情報のさらなる修復にかかった。

    「……ルジェ。もういい。もう大丈夫だ。あとは、自分でなんとかできる」

     皇子アヴェル・ヴァールは、先に比べるとどこかしっかりした声でルジェを制した。

     ルジェは皇子から離れると、視界の隅で人間の身体をとっているトリスメギストス師をきっとにらんだ。

    「なんということをなさるのですか、師よ。それが生ける皇宮スヴェル・ヴェルームに仕えられている皇子に対する礼というものですか!」

    「よせ。ルジェ。悪いのは師ではない」

     皇子はトリスメギストス師に向け、謝罪の情報を出した。

    「すまぬ、師よ。膝をついて詫びよう。自分を見失っていたようだ」

    「皇子がそこまで取り乱すというのは余程のことであろうな。それで、わしと錬金術師組合に、いかなる助けを求めに来られたのか。わかってはおいでと思うが、ここには情報と論理以外、なにも援けになるものはないぞ」

    「その情報がほしい。具体的にいえば」

     皇子アヴェル・ヴァールは半ば叫ぶようにいった。

    「雑情報から意味を引き出し、過去の歴史を遡ることすらできる、研究中の反エントロピー波動の知識が(欠落。ほしいのだ?)」
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    すみません(汗)

    こういうタイプの話も好みなので、一度書いてみたかったんです。

    なにしろこういう人間なので……(汗汗)

    NoTitle

    なんか心折れそうでございますなぁ
    一体、何の辺にあるのか
    チンプンカンプンになってきた。
    ここまで来たのだから
    読み通そうと意地にもなっている。
    おいおい、
    この物語はもう少し、お手柔らかにいかないのか
    v-406

    Re: limeさん

    トリスメギストス師の名前上のモデルは、グノーシス主義のえらい人、ヘルメス・トリスメギストスです。ラテン語だったかギリシア語だったかで「三重に偉大なる(トリス+メギストス)ヘルメス」という意味だそうです。昔大学の授業でレポート書いたんです。あのころは見るもの聞くもの新鮮で、楽しかったなあ。ずず~(渋茶をすする)

    反エントロピーは、小説の都合上出しましたが、どんな原理でノイズから情報を引き出すのかなんて考えてません。魔法みたいなもんだと思っていてください。いいのかSFを名乗る小説がこんなことで(^^;)

    トリスメギストスのグロいところは、ちょっと好きです。
    ただ、名前が舌を噛みそうw。

    反エントロピー。なんとか「僕らの相対論」で使えないかと奮闘したんですが、手ごわいです。
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