幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片029「ルジェはぽかんとしていた」

     ←断片028「困惑を隠しきれなかった」 →断片125a「大物が釣れるかもしれん……」
    (欠落)



     ルジェはぽかんとしていた。

    「お心を奪われなさった? 殿下が?」

    「落ち着いた目でこの皇子のぼろぼろになるまで歪んだ情報組織を見ればわかるじゃろう。心を奪われ、錯乱しておる。違うかな?」

     皇子アヴェル・ヴァールは繰り返した。

    「教えてくれ、旧人の女は、みなあのように、美しいのか」

    「皇子よ、わしはもう長いこと実物は見ていないが、野に咲く花は美しいかな?」

     皇子はぼんやりとした口調で答えた。

    「美しい」

    「野山を駆ける動物たちは美しいかな? 海を泳ぐ魚たちは美しいかな?」

    「美しい。……みな、美しい」

    「それと同じことじゃ。宇宙がこの世に生み出したものは、皆、それぞれに美しさを持って……」

    「それとこれとは別だ!」

     皇子アヴェル・ヴァールは叫んだ。

    「我が生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの中に、皇宮の深き諦念とともに見たあの見目麗しい女、旧人の女はみな、あのように美しいのか?」

    「殿下。殿下は、帝国の将来とひとりの旧人の女とを、すでに時の彼方へ雑情報とともに消え去ってしまった女とを、秤にかけるとおっしゃられるのですか?」

    「ルジェくん」

     トリスメギストス師は否定的な印象でルジェの言を遮った。

    「もういかんよ。こうなってしまった男に、なにをいっても無駄じゃ。それよりも、わしもわしで興味がある。この皇子が生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの中で見た女というものにな」

     トリスメギストス師は皇子に礼をした。

    「そういうことならば、皇子、われら錬金術師組合は喜んで力をお貸しいたしましょうぞ。かつての物理帝国と違って、幻想帝国の基本は遊戯精神と柔軟性、かような機会が得られたことはたいへんな誇りというもの。ただし、条件がございます」

    「聞こう」

    「反エントロピー波動の知識、それはわれら錬金術師組合の情報構築物の中にございます。しかし、われらの全力を挙げても、その情報を力として実行するには足りませぬ」

    「なにが入用だ」

    「生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの、あの演算能力の一部をお貸しいただきたい。それだけのことができますかな? 生ける皇宮スヴェル・ヴェルームに仕える皇子たちの筆頭としてのお答えをお願いします」

     皇子アヴェル・ヴァールの答えは短かった。

    「わかった」



    (欠落)
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【断片028「困惑を隠しきれなかった」】へ  【断片125a「大物が釣れるかもしれん……」】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【断片028「困惑を隠しきれなかった」】へ
    • 【断片125a「大物が釣れるかもしれん……」】へ