幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片126「中島准教授は苦虫を噛み潰したような顔に」

     ←断片125b「なんてことだ!」 →断片127「自分でもよくわからなかった」
     中島准教授は苦虫を噛み潰したような顔になった。

    「われわれとしては、きみが自発的にこちらに加わってくれるのならば願ってもないことだ」

    「ありがとうございます、准教授」

     続由美子は皮肉たっぷりに答え、中島准教授の顔はますます苛立ちを帯びたものとなっていった。

    「それで、続研究員、きみはこのプロジェクトについて何か意見はあるかね」

    「クラッキング」

     続由美子は即答した。

    「もう、ここまできたら、真剣にクラッキングを疑うべきです。少なくとも、このクラッキングを行った犯人は、あたしがその正体不明の外国人と交わした言葉を知っているものと考えるべきです」

    「それで、きみは当然?」

    「はい。当然、こう考えています。このクラッキングを行った人間は、あたし以外にはこの世でただの一人しか知らない知識を持っている以上、その『ただ一人』かその仲間だと考えています」

     中島准教授は吐き捨てた。

    「きみがディアといっていた男だな」

    「はい」

    「ディアとかいう男は、このクローズドな環境にどうやってクラッキングしてきたというのかね」

    「それを調べるのは、あたしの仕事じゃありません」

     続由美子は、この地下施設を眺め回した。

    「ここには、あたし以上に、そういう仕事に対して能力のあるかたがいらっしゃられるのではありませんか?」

    「そう見えるか。ここにいるのは、すでに今、あのコンピュータの中で走っている言語ひとつすら逆アセンブルできない人間ばかりだ。もちろん、それにはこのわたしも含まれる。あれを解読するのは、人間業ではもう不可能なんだ」

    「じゃあ、誰がクラッキングしてきたのかについては、永遠の謎ですね」

     続由美子はあっけらかんといった。

    「ここまで防備を固めておきながら、たったひとりのクラッカーに敗北するなんて、現代日本の縮図そのものというか」

    「きみになにがわかる。逆アセンブルが不可能だというのは、人間や、人間の作り出した最速のコンピュータですら、逆算が追いつかないほどに、このコンピュータの内部では言語の進化と再構成が行われ続けているということなんだ。いわば、SVELは『計算不能関数』のひとつとなっているんだ」

    「計算不能関数?」

    「ビジービーバー関数みたいなものだ。答えがあり、それは有限回の計算で算出できることはわかっているが、その有限回の計算が、膨大すぎるほど膨大なものになり、結局のところ計算により導き出すことが不可能となる、といったものだ」

    「でも、それを導き出した人間がいるわけですよね」

    「ディアか。それとその一党か」

     中島准教授はモニタを忌々しげに見た。

    「きみの意見は重要なものとして扱うことにしよう」

    「ありがとうございます、准教授」

     続由美子は半ば皮肉交じりに、半ば本気で中島淳教授に頭を下げた。
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    もう事態は行くところまで行ってしまったので、後は駆け抜けるか永遠に止まるかのいずれかです。

    わたしは駆け抜けるほうを選びました。5月までには終わるでしょう。

    > というところまで問題を尖鋭化させるつもりでしたが、腕が……

    もともと一年かけてやるつもりだったのなら、現時点からとりあえず、休み休みゆっくりと理屈をこねあげて(!?)ゆけばいかがでしょう。読者として早く先が読みたいのはやまやまですが。
    せっかくの壮大な稀有なる物語が拙速にて作者の不本意に終わるとしたら、なんとももったいない!

    なにしろこの話はポール・ブリッツ一世一代の(欠落)

    Re: limeさん

    説明不足でしたが、この場合は、時間を歪ませているのは皇子アヴェル・ヴァールが皇宮の中で見た旧人の女の顔の鮮烈きわまるイメージでしょうね。皇子の時代から見れば。

    それに対して、続由美子の時代から見れば、これは単なるコンピュータが吐き出したテキストに過ぎません。これに真実性を認めるかどうかで、中島准教授と続由美子は対立しています。

    それを遙か彼方の未来から眺めているのが詩人と隠者です。

    いったい誰の時代が真実なのか。誰の時代がテキストなのか。そもそも、真実とテキストは分けられるものなのか、というところまで問題を尖鋭化させるつもりでしたが、腕が……(汗)

    時系列で言うと、ディアはずいぶん後世の住人のはず。
    何が時間を歪ませたのか。
    徐々に体制を立て直して優位になっていく由美子のこのあとも気になります。
    でも・・・やっぱりまだ全体像が掴めずにいる私って、ダメなやつ。
    半エントロピーの勉強、してきます。(そこ、関係ない?w)
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