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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片129「コミュニケーションか」

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    「コミュニケーションか。きみが追っているのは、今から一万年以上未来の新人類ではなくて、今、世界のどこかにいる、きみを捨てたクラッカーなんだろうな」

    「ご自由にお考えください」

     中島准教授の言葉に、続由美子はのほほんとして答えた。

    「考えなくてもわかることだ。しかし、きみの言葉ももっともだ。われわれも、未来に引かれたレールから逃れるために、なんらかのアクションを行わなければならない。それは、現代の社会状況に対するアクションでなくとも構わないわけだ。あのコンピュータを通信機のように使うことができさえすれば、われわれの持っているカードはさらに多くなる。未来よりも過去のほうが、選択肢という点では優位に立っていると考えるべきだからだ」

    「准教授は、いまだにあれを未来からの情報だとお考えなんですか?」

    「SVELは人間の脳味噌では思考不可能な言語だからな」

    「ひとつひとつ、ステップにわけていけば、人間にも理解可能なんじゃないんですか?」

    「無限の時間があったらの話だ。そして、われわれが階段を一段登ったときには、SVELとコンピュータは、ランドマークタワーのエレベータみたいに進化の階梯を急上昇している。その差は開くことはあっても、縮まることはない」

     中島准教授は続由美子に背を向けた。

    「きみだったら、あのコンピュータになにをインプットする?」

    「そうですね。あたしたちの日常生活なんてどうですか? 海のものとも山のものともつかないコンピュータに、なにも知らないうら若き娘を生贄に捧げる頭の悪い男たちの日常なんか」

    「皮肉ばかりいっているとあとでしっぺ返しが来るぞ」

     中島准教授は吐き捨てると、続由美子を置いて廊下を歩いて行った。

     こうしてひとりになってみると、やることがなかった。こんな駆け出しの言語学者などよりも有能な……情報テクノクラートとして有能な言語学のスタッフがそろっているだろう以上、自分はアウトサイダーとしてしかふるまえないし、期待もされていない。

     この施設にいる人間が求めているのは、続由美子という人間の体内に存在するだろう癌細胞だけだ。しかし、コンピュータを通してあのメッセージを送っているのが、ディアだとしたらどうなるか? 癌細胞が存在するという論拠も怪しくなるし、このプロジェクトすらも、ただ単に無為な行為であったということになるかもしれない。

     そして、望みを捨てないでいさえすれば。

     続由美子は、ふかぶかと息を吸った。

     ディアが助けに来てくれるかもしれない!

     夢想に近い願望だということもよく承知している。しかし、自分が生きてこの狂った集団から逃れるチャンスがあるとすれば、これ以外に道はない。

     この閉塞した空間を歩き回るのにも疲れ、続由美子は医務室へと向かった。癌の検査を自分に強いた場所だが、ほかに時間を潰せそうなところもなかった。

     それに、そろそろ検診の結果もまとまるはずだ。あの准教授たちに知られるのも面白くないが、この脱出不可能な地下にいる以上は、自分だけに情報を隠すこともないだろう。隠したところで、いつの間にか情報は現われ出てくるものだ。

     続由美子は医務室のドアを開け、付属のモニタを指で操作した。

    『ツヅキ ユミコ 様の検診結果』

     続由美子は自分の身体が硬直するのを覚えた。

    『子宮頚部に中~小規模の無視できない腫瘍があります。早めに手術の必要があります』

     子宮頚部。中から小規模。無視できない腫瘍。

     続由美子は気が遠くなり、医務室の床に倒れこんだ。

     ディア……!
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