幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片130「気分はどうかね?」

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    「気分はどうかね?」

     医務室のベッドの脇で、中島准教授はどこかうれしげに続由美子に問いかけた。続由美子は、そんな中島准教授とは正反対の気分だった。

    「自分が哲学的ゾンビだったらな、と思います」

     鏡に映る自分の顔はどこか青ざめていた。

    「哲学的ゾンビか。たしか、神様からインプットされたデータどおりにふるまい、質問には答え、怒らせると怒り、普通の人間と同じような生活をするが、それはカセットテープを再生しているような見かけだけのもので、意思も知性も魂も備えていない一種の自動人形のような存在だったな。そこまで落ち込むこともないと思うが。腫瘍もそれほど大きいものじゃない」

    「だったらすぐに手術してください!」

     続由美子は叫んだ。

     中島准教授はにやりと笑った。

    「そうもいかないのだ。腫瘍があまりに小さすぎるというのも危険なのだよ。きみの身体の中で、もうちょっと大きくなるまで待つことになるだろう」

    「あたしは実験用のマウスですか」

     続由美子は苦々しげに答えた。中島准教授は、それに対して神経を逆撫でするような言葉を被せてきた。

    「きみは単なる実験室のマウスじゃない。ある意味結果が保証された実験室のマウスだ。この違いは大きいぞ」

    「勝手にしてください」

    「勝手にするとも。……きみ、どこへ行く?」

    「どこへ行くかといわれても、この状況で行ける場所なんかそう多くはないでしょう。あたしは残された時間をいくらかでも有意義に過ごすだけです」

     続由美子はベッドから起き上がった。

    「きみの存在は十分に有意義だよ。人類にとってきわめて有意義だ」

     続由美子は耳をふさいだが、中島准教授の言葉は、耳を覆った手のひらを通してその聴覚神経に入ってきた。

    「第一に、きみは、このSVELが部分的にしろ『未来の記憶』を持っていることを鮮明にした。SVELの予言は当たり、きみの身体には癌細胞がある。次に、きみの身体の癌細胞は、うまく培養して研究を重ねれば、医学・生理学の分野において革命的ともいえる影響を与えるだろう。きみはこれから生まれてくる無数の命の母親になるのだ。まさしく、国母と呼んでいい存在に」

    「もういいです!」

    「第三に、きみは、このSVELを使って未来とのコミュニケーションが取れるという見方を示した。われわれは、なんとしてでも未来を操作し、人類があのような不幸な結末を迎えるのを避けねばならない。これは人類が人類として生きるための義務だ」

     聞いていられない。続由美子は、医務室を出ると、でたらめに歩き出した。どこでもいい、あの准教授の言葉が聞こえないところならどこでもいい。

    「続研究員、見たまえ。SVELが、またなにか、情報を吐き出し始めたぞ」

     中島准教授は嬉しそうにいった。

    「あのアヴェル・ヴァールとやらは、きみにどのような感想を持ったのか、知りたいだろう、続研究員?」

     知りたくない。そう切り捨ててしまうには、ディアとの思い出は甘美に過ぎた。

     続由美子は、SVELを走らせているコンピュータの前に据え付けてある大型モニタの前に行き、打ち出されてくる文書を読んだ。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    中島准教授は、最低なやつです。おっしゃるとおりのゆがんだ執着を由美子に対して持っています。

    ゆがんだ学者ってこういうものじゃないかなあ。

    ちなみに名前を借りた大学時代の社会学の講師の先生は、まじめでいい人であります。今でもときどき会いに行ってます(^_^)

    NoTitle

    中島准教授の自分じゃない、選ばれなかったミタイナ
    強烈な嫉妬がそこかしこに感じられて
    由美子はいたたまれないだろうな

    なんか嫁姑の争いを見ているような気がしてきた。
    新婚夫婦の寝室の中まで探ろうとする姑みたいな
    お~~やだv-12

    Re: limeさん

    ふたりのラブロマンスは、とんでもない方向へ向かうことになります。

    こんなこと書いていいのか……(汗)

    中島准教授は、ただの学者にすぎません。

    そういうものです。

    できればここから、ディアと由美子の甘いラブストーリーなんかが、ちょっと始まって欲しかったりするんですが、無理ですよね・・・。
    ディアは白馬の王子様にはならないのか。
    そして中島教授は悪人なのか、人類の救世主なのか、マッドサイエンティストなのか。
    見ていきたいと思います。
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