幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)
断片225「そこは異様な村だった」
そこは異様な村だった。詩人は入ってからすぐに、底知れぬ嫌悪感を感じた。
村に住むもののほとんどが、砂河鹿のような体つきをしていた。その他のものは、砂河鹿よりももっと醜い体つきをしていた。その容貌に至っては、いわずもがなだ。
ここが砂河鹿の生まれ故郷だというのはほんとうだろう。しかし、ここに、隠者とやらが住んでいるというのか。本気でそう信じていいのか。
詩人は村人の言葉に耳を澄ませた。
太古の言葉ではなかった。訛りこそきついが、普通の大衆言語だった。その声も、砂河鹿の澄みきったそれとは違った、耳障りなものだった。
「砂河鹿。この村のどこに隠者がいる?」
詩人は統制言語で砂河鹿に尋ねた。
「この村にはいない。ここから少し離れたところに隠者の庵はある」
「そちらに案内してくれ。ところで、この村の人間の言葉を、お前は理解するか?」
砂河鹿は否定的な身振りをした。
「まったく、わからない。知っているのは、隠者様が教えてくれた言葉だけ」
「少なくとも、ぼくと隠者とやらは、普通に話ができそうだな」
詩人は、この村で、いくばくかの水と食料を求めようとした。
「王国の貨幣は、わかるか?」
詩人の取り出した数枚の貨幣に、村人は首を振った。
「そんなもの、持っていても、ここでは、なんの役、立たない」
「それじゃあ、ぼくたちに売れるものはないか?」
「ない」
村人はそっけなかった。
「砂漠蛙、収穫、悪い。余分、ない」
「歌はどうだ?」
詩人が、「歌」、と口にしたとき、村の雰囲気が一変した。
「歌……歌は、この村に、災い、もたらす。出て行くがいい。歌、歌っていいのは、隠者だけ」
はっと気がついてみると、詩人と砂河鹿は、棒やそれに類したものを構えた村人たちに取り囲まれていた。
「行こう。たしかに、隠者に会うしかなさそうだ」
詩人は統制言語で砂河鹿にいった。
「案内する」
砂河鹿は美しい声でそう答えた。この声がある限り、同じような姿をしていても、この村のものにとっては、砂河鹿は永遠によそ者なのだろう。詩人は、砂河鹿のことを思い、ふと、涙が出そうになるのを覚えた。
砂河鹿がふるさとを知らないということよりも、ふるさとを持つということがどういうことなのかを知らないということのほうが哀れに思えたのである。
それでも、砂河鹿がこのあたりの出であることは明らかだった。
砂河鹿は、つい昨日このあたりから出てきた人間でもあるかのように、あっという間に砂の中から小さな小屋を見つけ出した。
「あれが隠者の庵か?」
「そう」
そして、そこには、待っている人間がいた。身体全体を黒の長衣で覆った人物。
「隠者か?」
「そう」
詩人の問いに、砂河鹿はそうとだけ答えた。
村に住むもののほとんどが、砂河鹿のような体つきをしていた。その他のものは、砂河鹿よりももっと醜い体つきをしていた。その容貌に至っては、いわずもがなだ。
ここが砂河鹿の生まれ故郷だというのはほんとうだろう。しかし、ここに、隠者とやらが住んでいるというのか。本気でそう信じていいのか。
詩人は村人の言葉に耳を澄ませた。
太古の言葉ではなかった。訛りこそきついが、普通の大衆言語だった。その声も、砂河鹿の澄みきったそれとは違った、耳障りなものだった。
「砂河鹿。この村のどこに隠者がいる?」
詩人は統制言語で砂河鹿に尋ねた。
「この村にはいない。ここから少し離れたところに隠者の庵はある」
「そちらに案内してくれ。ところで、この村の人間の言葉を、お前は理解するか?」
砂河鹿は否定的な身振りをした。
「まったく、わからない。知っているのは、隠者様が教えてくれた言葉だけ」
「少なくとも、ぼくと隠者とやらは、普通に話ができそうだな」
詩人は、この村で、いくばくかの水と食料を求めようとした。
「王国の貨幣は、わかるか?」
詩人の取り出した数枚の貨幣に、村人は首を振った。
「そんなもの、持っていても、ここでは、なんの役、立たない」
「それじゃあ、ぼくたちに売れるものはないか?」
「ない」
村人はそっけなかった。
「砂漠蛙、収穫、悪い。余分、ない」
「歌はどうだ?」
詩人が、「歌」、と口にしたとき、村の雰囲気が一変した。
「歌……歌は、この村に、災い、もたらす。出て行くがいい。歌、歌っていいのは、隠者だけ」
はっと気がついてみると、詩人と砂河鹿は、棒やそれに類したものを構えた村人たちに取り囲まれていた。
「行こう。たしかに、隠者に会うしかなさそうだ」
詩人は統制言語で砂河鹿にいった。
「案内する」
砂河鹿は美しい声でそう答えた。この声がある限り、同じような姿をしていても、この村のものにとっては、砂河鹿は永遠によそ者なのだろう。詩人は、砂河鹿のことを思い、ふと、涙が出そうになるのを覚えた。
砂河鹿がふるさとを知らないということよりも、ふるさとを持つということがどういうことなのかを知らないということのほうが哀れに思えたのである。
それでも、砂河鹿がこのあたりの出であることは明らかだった。
砂河鹿は、つい昨日このあたりから出てきた人間でもあるかのように、あっという間に砂の中から小さな小屋を見つけ出した。
「あれが隠者の庵か?」
「そう」
そして、そこには、待っている人間がいた。身体全体を黒の長衣で覆った人物。
「隠者か?」
「そう」
詩人の問いに、砂河鹿はそうとだけ答えた。
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砂河鹿の姿形、気になります。
どんななんだろう?
声、どんなに美しいんだろう?
とても気になるキャラです。
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とても気になるキャラです。
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Re: 山西 サキさん