幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片226「詩人は苛立った」

     ←断片225「そこは異様な村だった」 →断片227「幻想帝国の為政者たちは賢明だった」
     詩人は苛立った。

    「もし、ぼくたちの使っている言葉が神の言語だとすると、神はどこにいるのですか。ぼくたちが神だなんて、そんなことを信じているわけではないでしょう?」

     隠者はうなずいた。

    「そう。わたしたちは神ではない。神の言語を使うことはできるが、神ではない」

    「ぼくが求めているものは、神の言語を神として使う存在です!」

     いきりたつ詩人に、隠者は静かな声で答えた。

    「われわれにはそれを見出すことはできない」

    「どういうことですか!」

    「きみ。右手を持ち上げてみたまえ」

     急に隠者にそのようなことをいわれて、詩人は戸惑った。

    「どういうことですか!」

    「右手を持ち上げてみたまえ!」

     詩人は右手を、肩の高さまで持ち上げた。

    「これでいいですか」

    「もちろんだとも」

    「これで、なにがわかるんですか」

    「きみは、詩人として、様々な地で古代の伝承を集めてきたことだと思う。その中に、『哲学的ゾンビ』という言葉はなかったかな」

     手を降ろし、詩人はちょっと考えた。

    「あった。ありました。伝承において、続由美子の言葉として、伝わっています。『ゾンビ』とは果たしてなにを指すのか、様々な意見が対立していますが、『本読み』たちの意見としては、『死人』ということではないか、というのが定説です」

    「そのとおりだ」

     隠者はうなずいた。

    「そしてこれが、生ける皇宮スヴェル・ヴェルームが、結局のところにおいて『神』ではなかったということの証明になるのだよ」

     詩人は面食らった。

    「スヴェル・ヴェルームは神ではない?」

    「本質的に、あれは神ではないのだ。神などとはいかなる意味でも呼べる存在ではない」

    「スヴェル・ヴェルームが死んでいるからですか」

     詩人は隠者の話についていけなかったが、さらになんとか尋ねた。

    「本読みの中でも、神学者たちの一部はいいます、神は不滅な存在だから、死ぬことなどはありえないと」

    「スヴェル・ヴェルームがたとえ不死だろうと、あれは神ではないのだ。わたしは、長い年月を生きている間に、様々なことを様々な人々から学んだ。古代の知識や、統制官たちが台無しにしてしまった知識のかけらを拾い集めては、できるかぎり修復したものだ。……きみ。きみは、『生成文法』というものを聞いたことはあるかね?」

    「ありません」

     隠者は首を振った。

    「惜しいな。あれを知っていたら、説明の要が省けるのだが。いいかね、生成文法とは、われわれが言葉でものを考え、発話するときの初期条件として持っている、いわば言葉の雛形だ。すべての言語活動を支える基礎的な文法だ」

    「よくわかりませんが……それと、ぼくが右手を上げたことと、スヴェル・ヴェルームは神でないということに、どういう関係があるんですか?」

    「その三つから、面白い結論が導ける。わたしは、『神学的ゾンビ』と呼んでいるがね」
    関連記事
    スポンサーサイト



    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【断片225「そこは異様な村だった」】へ  【断片227「幻想帝国の為政者たちは賢明だった」】へ

    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    トリックというか伏線のようなものはでかいのを張ったつもりですが……わかりにくくてすみません(汗)

    NoTitle

    ここに至っても全体像が茫洋としている。
    ポールの頭の中を覗いて見たくなる
    それでもって始めから番号順に並べてる。
    大きなトリックが隠されていないか
    確かめたくなる。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【断片225「そこは異様な村だった」】へ
    • 【断片227「幻想帝国の為政者たちは賢明だった」】へ