幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片229「園遊会は大成功だった」

     ←断片228「詩人は目を背けた」 →断片230「王宮で生きるのは」
     園遊会は大成功だった。拍手の雨の中で、少年は頭を下げつつ、ほっとした気分になっていた。

     少年は気がつかなかったが、拍手が鳴って当然だった。まだひげも生えていないような少年が、あどけなさの残る声で、王族も貴族もたしなみとしてしか知らない古詩を、正確無比に吟ずるのだ。それだけではない。ちょっとばかり統制文字と統制言語をかじったような、「知的で教養ある」人間を気取った一部の貴族からの、即興詩を作れとの難題も、統制言語を自家薬籠中のものとし、「本読み」として鍛えに鍛えた文学的才能で、見事以上にやってのけたのだ。なまなかな人間にできるものではない。

     国王陛下もお妃様も拍手をしていたが、ことさらに大きな拍手を送っていたのは、王女様だった。その顔はどこか上気してばら色になっていた。

     その顔を見た少年は、あのお妃様とは違った、愛らしさと美しさとを見出し、なんとなく背筋にぞくぞくとしたものを感じた。

    「お父様! この人、あたしの専属の詩人にしたい!」

     王女様はとんでもないことをいいだした。

    「考えの足りないことをいうものではありません。この少年には、『本読み』としての立派な仕事があるのですよ。勉強も仕事もこれからというものです」

     王妃様が、笑いながらも娘をたしなめた。

    「いや、奥方様、王女様のお考えも一理あること」

     いかめしい顔をした大臣が、その意見に異を唱えた。

    「王女様は、こう申してはなんですが、未だあまりに言動が幼い。この子供なら、年も近いことであるし、必ずや古事古典のいい教師となるでしょう。わたくしめからも、謹んでお願い申し上げます」

     そして国王陛下は……。



    「とんでもないことになっちゃった。ぼく、これから、正式に『詩人』だって」

     少年は、いや、『詩人』は、親しくなった例の近衛兵に相談した。

    「王女様づきか。出世したな、一気に。これで、誰も、お前を小才が利くだけの小物とは思わなくなっちまった」

    「どうしてわかるの?」

    「あの大臣の態度を見ればわかる。お前さんを、自分の派閥に取り入れたいという態度が見え見えだ。あいつの手先になるのはじゅうぶんありな選択だが、絶対に気を許すなよ。気を許したら、さっと梯子を外されると思え。それと、これだけは考えておいたほうがいい。お前さんは、なんのために宮中に詩人として仕えるのか」

     詩人はその問いに即答した。

    「国王陛下と、奥方様と、王女様のお幸せをお守りするため」

    「正直な話、お前さんが重視しているのは、後のふたつのほうだろうと思うが、それはそれでいい。立派な態度だ。だったらいいな。どんな誘惑がこようとも、それを忘れるな。忘れなければ、お前には首尾一貫した男、という印象がつく。そうなれば」

    「そうなれば?」

     近衛兵は悲しげに笑った。

    「勝ちに乗っている限り、お前は安泰だ。だが、いったん負けの方向に天秤が傾くと、命すら危うくなる。そういう博打が楽しめる。お前の勝ちは、『王妃様と王女様の幸せ』だ。だから精一杯に忠節を尽くせ。これがおれからの忠告だ。損得勘定抜きのな」

    「どういうこと?」

    「これからは、お前と口をきくにしても、ひとりの宮廷人として話すということだよ」

     それが、詩人が宮廷で生きることの恐ろしさを知った最初だった。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    このあたりはわざと時系列を崩して書いていますが、思ったほどの効果は上がらなかったようです。

    読者がただ混乱するだけでした。てへ☆(「てへ☆」じゃねえだろ!(^_^;))

    NoTitle

    純粋な水はこうして色んな不純物を取り込んで
    汚くなっていくのか
    一体?
    世俗に汚れた魂は死ぬことで浄化されるのだろうか
    何世代も汚れを貯めこみながら
    何が綺麗か何が正しいかと逡巡する心も鈍化していき
    いつかは石塊となるのか
    ああ、そんな事を考えてしまった。

    この少年が詩人となって何を見て、何をなしたのか
    何をしなかったのか
    それを知るのは彼だけなんだろうね。
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