幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片230「王宮で生きるのは」

     ←断片229「園遊会は大成功だった」 →オオサンショウウオ(仮名)さん千早イラスト!
     王宮で生きるのは並大抵の覚悟では勤まらなかった。その際にいちばん役に立ったのは、確かにあの衛兵がいったとおり、「一本筋を通す頑固な若者」としての自分の印象だった。本気で詩人はそう思っていた。

     それにしても、人間の権力欲とは、いかに底知れないものか。なにかに突き動かされたかのように、人を裏切り、騙し、挙げ句の果てには死に追いやることが、こんな王国においてもごく当たり前のように行われているのだ。

     王女様と王妃様の笑顔がなければ、とても自分にはこの世界で生きることはできなかっただろう。

     詩人はその鋭い頭脳で、愛の詩を語るふりをしながら、巧みな比喩と話術を駆使して国王陛下や王妃様、王女様に適切な助言をした。八割はうまくいったのではないか。しかもそれを、影で行えたと詩人は思っていた。

     やがて、王女様も、詩人も、国王陛下も王妃様も、年を取った。年を取ることで、お妃様は、ご病気になられた。ご懐妊することはもはやないことは誰もが承知していた。

     男児が望めないとなれば、異国から養子をとるしかない。そしてその養子は、王女様と結婚し、国王陛下がおかくれの際はこの国の王位を継ぐことになるのだ。

     てきぱきと支度が整えられ、養子縁組の用意が整った。養子となるべき異国の王子に、詩人が文句をはさむゆえんはなかった。立派な男だ、とは思う。だが、先王の政を受け継ぐにしては、少々立派すぎないか? 専横のふるまいをなすのではあるまいか。

     そんな中、国王陛下が倒れられた。突然の病、ということだったが、詩人は「暗殺」という疑いを捨て切れなかった。統制文字で書かれた古の書には、そのような先例がいくつか見受けられたからだ。

     王子と王女が婚姻するのは当たり前だったが、今の段階で、王妃様にまで倒れられてしまうのは避けたかった。このままでは、王女様に味方してくれる重要人物のバランスが崩れてしまう。

     いきなり熾烈を極めることとなった権力闘争の中、詩人は、王妃様のご病気を癒す方法を、古文書の中に賢明に探した。『生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの骸と、神の言語を探し出せれば、いかなる病も癒されるであろう』という断片は見つかったが、それ以上のことは……。

     そんなおり、詩人は玉座の間に呼び出され、『各地に散らばる詩の収集と保存に当たるべし』という王命を受けた。

     その命を代読した大臣の顔を見て、詩人は、自分が権力闘争に負けたこと、王女派の最後の砦と万人が認めていたあの大臣までもが、王子派に回ったことをこれ以上ないほど痛烈に悟らされたのだった。

    「ご下命お受けいたします」

     詩人にはそう答えるのが精一杯だった。だが、同時に目標もできた。

     王国中を、もしそれで足りぬなら世界中を巡り歩き、王妃様を癒す「神の言語」を手に入れ、詩文にまぎれて持ち帰り、王女様のお命を安全なものにしなければならない。

     無理かもしれないが、それ以外に道はない。詩人は、荷造りを始めた。長い旅の始まりだった。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    旅の結末は断片231から結末にかけて書かれてあります。

    まあ、結末の肝心なシーンは最初のほうにすでに書いてしまいましたが。

    そこらへんは構成的にちょっと凝りすぎたかな、と思っております(^^;)

    NoTitle

    ふむふむ
    それで長ーーい旅に出たわけなのか
    二度と戻れない旅だったのかな
    あてがありそうでなさそうな
    辛い旅だわ

    Re: LandMさん

    でも度を越えた向上心はロクな結果を生まないような気もします。向上心が、「他人を蹴落としてでも」となると事態が急に悪化してしまう。

    アリストテレスもいうように、道徳の基本は「中庸」にあるのですが、そのバランス感覚が難しい……。

    権力欲は向上心にも繋がるので一概に駄目ともいえないですけどね。ですが、確かに今は時代が変わりましたね。個が個として生きる時代ですからね。仕事をやめるのが当たり前。下っ端で働くのがいやだったら、自分で会社や法人を設立する。そういう時代変わっている日本は確かにそういった意味では成長しているのだと、今回の文章を見て思いました。
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