幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片031「どうしてこうなったのか」

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     どうしてこうなったのか、自分でもわからなかった。なにかに導かれるまま、彼は目の前の娘を求め、娘はそれを受け入れた。その間に、どんなやり取りがあったのか、彼はよく覚えていなかった。夜が来て、当たり前のように彼は「続由美子」と名乗る娘と交わり、朝を経てまた夜が来て、そして何度目かの朝を迎えた。

     娘は、裸の身体に夜具を巻きつけただけの姿で、彼に尋ねた。

    「あなたは、どうしてそんな目をしているの?」

    「わたしにもわからない」

     彼はそう答えた。記憶がほとんど欠落している以上、そう答えるよりなかったのだ。

    「どうして、日本に来たの?」

     日本、というのがこの土地の名前だということは、前後の脈絡からなんとなくわかった。

    「きみに逢うためだ」

     そう、それだけはなんとなくわかっていた。逢ってなにをするのかは覚えていなかったが、逢うのが目的だという確信はあった。

     娘は、ころころと笑った。

    「あたしに逢って、こうすることが目的だったわけ?」

     彼は少しばかり憤慨した。なにか重大な目的があったはずなのだが、思い出せないのだ。その掻痒感が、憤慨させるのだった。

    「そういういいかたは気に入らないな」

    「だって、ほかにいいかたもないじゃない。あたしに逢いたがる王子様が、白馬に乗ってやってくるなんていう夢、あたしはとっくに捨てたんだから」

     王子、という言葉に、なにか記憶のどこかが反応した。だが、なにが反応したのかまではわからなかった。その苛立ちもあり、つい彼は、きつすぎる言葉を返した。

    「面白くない冗談だな。この国の人々は、みんなそういう冗談が好きなのか?」

    「あたしくらいね」

     そういうと、娘は彼の背中に飛びついてきた。その体温と身体の重さを感じ、彼は娘が自分の無礼な言葉を気にしていないのを知って、安堵を覚えた。安堵からくる照れと、心のどこかにある礼儀というものが、反射的に言葉になって出た。

    「高貴なるものには……」

    「ふさわしくないんでしょう。ほんと、王子様みたいな人ね」

     この国では、王子であろうと勤めることは罪かなにかなのだろうか。彼は苦笑いした。

    「それで、きみは平民だというのか。平民であっても、心は貴族であるべきだ。そういうものだろう、きみ?」

     自分としては当たり前のことをいったつもりだったが、娘にとってはそれも冗談に聞こえたらしい。

    「それじゃ、この世界で、貴族である意味がなくなっちゃうじゃない」

     高貴に生きるということはそういうことではないと、心のどこかが告げていた。彼はできるかぎり明瞭にそれを伝えようとした。

    「貴族になるには条件がある。常に貴族として考え、行動できる人間であることだ。それは、きみが思うより難しい。わたしも、そのような人間は、あまり数多くを知っているわけではない」

     そう告げたとき、彼は、自分でも気がつかないうちに、重大なことをいったことに気がついた。わたしは誰か、どこかにいる高貴なる他者の存在を知っているのか?

     なにかを思い出さなければならない。それもすぐに。それも早く。

     だが、その考えは、娘の次の言葉で途切れた。

    「それで、あたしも、そうした貴族になれるかしら、ディア」

    「ディア……?」
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