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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片036「足取りには臆するところはなかった」

     ←断片035「淡々と語った」 →原稿の書ける水
    (欠落。皇子アヴェル・ヴァールの?)足取りには臆するところはなかった。それはまっすぐ生ける皇宮スヴェル・ヴェルームを目指していた。

     皇子アヴェル・ヴァールを迎えるように、その場には数多の皇子たちが、礼装して集まっていた。その中から、ひとりがゆっくりと歩み出てきた。

    「皇子アヴェル・ヴァール、これが望みか?」

     フードで深く顔を覆った相手の皇子に対し、皇子アヴェル・ヴァールは胸を張って答えた。

    「無論」

     顔を覆った皇子は一礼した。

    「我ら皇子たちはその賢明なる行為に敬意を表するものである」

     皇子アヴェル・ヴァールもうなずくと、スヴェル・ヴェルームを構成する情報媒体の山の前で、寛衣を脱ぎ捨てた。身体に彫られた、蒼龍の刺青があらわになった。皇子アヴェル・ヴァールは平静を保っているようだったが、内心の昂ぶりを表すものか、ルジェの手により彫られた龍は、皇子の肌の上で激しくうごめき、悶え、咆哮をあげるかのように口を開くのだった。

    「ルジェ」

     ルジェは平伏していた。

    「殿下……」

    「今生の別れとは思いたくないものだな」

     皇子アヴェル・ヴァールはそう告げると、まっすぐに生ける皇宮スヴェル・ヴェルームに歩み寄り、情報媒体に手を触れ、どこまでも潜っていった。

    「殿下!」

     ルジェはうつむき、小さく叫んだ。

     先ほど皇子アヴェル・ヴァールに声をかけた、顔を覆った皇子がルジェのそばに立ち、いった。

    「皇子アヴェル・ヴァールは、生ける皇宮スヴェル・ヴェルームと一体となり、一部となった。あれほどの力ある情報の操り手なら、すばらしい情報媒体となるであろう。面を上げ、立つがよい、ルジェ。そなたにはやらねばならぬ仕事がある」

    「わたくしめは殿下の僕にございます。わたくしめの仕事は、殿下の決められたことを守ることと存じております」

     ルジェは平伏したまま答えた。

    「あくまで皇子アヴェル・ヴァールに忠節を尽くすか。それも天晴れな態度であるが、そなたの才を考えると、惜しい。われわれとしては、ぜひともそなたを『統制官』の一人として任命したいと考えていたのだが」

     その言葉を聞いて、ルジェは立ち上がり、無礼と知りつつ皇子の身体に手をかけた。

    「なんと! なんと仰せられましたか? 『統制官』と?」

     顔を覆った皇子はルジェの手を取った。

    「さよう。皇子アヴェル・ヴァールの探っていた『統制官』の意味がわからぬ現在、『統制官』という言葉自体を、われわれの操作できる範囲のうちに持ってこようと、皇子たちの総意で決めたのだ」

     ルジェは、愕然としながら皇子の身体から手を離し、だらりと下げた。

    「そ……それで、そのお役目とはいかなるものでありましょうや」

    「生ける皇宮スヴェル・ヴェルームの、失われた半身の修復。それがその仕事となる。スヴェル・ヴェルームがなにをどう判断して行動しているのかを、ひとつひとつ、手順を踏んで学び、再現し、傷ついた身体が再生できるようにするための下準備をするのだ」

     ああ……と、ルジェは悟った。

     予言は成就された。幻想帝国は、滅びへの、決定的な転換点を迎えたのだ!
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    ここから先は語るのがつらい。

    それでも最後まで読んでくだされば幸いです。

    やっぱりラブロマンスに留めておくべきだったかも……。

    NoTitle

    皇子と由美子はここで一つとなったのか。
    淡々としていながらも
    皇子の心は震えるほど興奮していたに違いないと思う。
    久しぶり蠢く彫り物が出てきて
    ワクワクしてしまう。
    形が違っても恋する女性と永遠に結ばれたことは
    皇子には幸せだったよね。
    ディアの最後に相応しい結末でした。
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